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「ねえ、気分悪いの? 大丈夫?」

 ナミトクの制服を着たあたしは、フェリー乗り場で加藤杏をすぐに見つけることが出来た。ただでさえ人が少ない中で、喪服を着てキャリーバックを持っている女の子なんて目立ちすぎだ。お父さんにもらった資料写真と照合する必要すらない。あんなキレイな子、本土でもそうはいない。あたしはぼんやりと物思いに耽っている彼女に、すぐに近づき話しかけた。

「別に、悪くないよ」

 加藤杏は淡々とした声で返事をした。

「でも、すっごい顔色悪いよ」
「あんたには関係ないよ。放っておいて」

 加藤杏は、攻撃的な口調であたしを追い払おうとしていた。

 何、この子、生意気。頭おかしいくせにあたしにそんな態度取るんだ。あなた、好きなモノに対して破壊衝動をもってしまう壊れた人なんでしょ? あたしはお父さんからもらった資料で全部知ってるよ。だから、親にナミトクに売られたんでしょ? 楽しみだよ。強い心を砕く時ほどいい音が鳴るんだよ。 

「なくはないよ。あなたもナミトクの生徒なんでしょ?」

 私は余裕から微笑を絶やさず、彼女に言葉を突っ返した。

「ナミトク?」

 この子、今から自分の転入する学校も分かってないの? 馬鹿じゃない?

「それ、ナミトクのパンフ入った封筒じゃん。今日、あたしと転入する子がいるって聞いてたから、あなたかなって」私はとりあえずパンフを理由に加藤杏を転入生と判断したフリをした。本当はこの子が急に気が変わって逃げないように、先手を打って待ち伏せしてたんだけどね。
「あんたも、今日からここに通うの?」

 加藤杏の声が幾分柔らかくなってきた。よし、ちょっとだけどガードが下がった。

「うん。これナミトクの制服だよ。田舎の学校にしてはデザイン良くない?」

 ブラウスの襟を指先でつまみつつ、私は表情を微笑から笑顔へと変化させた。目一杯良い感じの笑顔で、もっと心を開かせてやる。おっと、あんまりやり過ぎて好きになられても殺されちゃうから、いいバランスを保つのも忘れない。

「ふうん」