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 こんにちは、あたしは藤原皐。二十四歳。冴えない中小企業でOLやってまーす♪

 でも、日本のちっちゃい会社って、マジでブラックばっかだよね。 

 昨日も、女の子に夜十一時まで残業させるし、マジ信じらんない。

 あーあ、受付嬢とかにすれば良かったかな、それか秘書課とか。

 今度、お父さんに頼んで、転籍させてもらおう。うん、それがいい。

 何で国立大出て、海外留学したあたしが、社内SEなんてやんなきゃならないのよ。しかも今時、汎用機でCOBOLやアセンブラ走らせてんの。ダサっ。

 お父さんは二、三年は目立たないようにあの会社でフツーのOLしとけって言ってたけど、何でかな?

 まあいいや、せっかく早起きして、緒方透を籠絡するために手作りのお弁当を作ったんだ。

 いきなりアパートを訪ねて、驚かしてやろう。

 昨日は、逃がしちゃったけど、今日は絶対、逃がさない!

 薬盛れば、余裕っしょ。

「皐、行きまーす!」

 あたしは合コンで一番受けのいい花柄のフレアースカートに白い大きめのセーターというゆるふわコーデでマンションの自室を出た。エレベーターを降りた時、二十四時間待機している管理人が窓からあたしの顔を見て、深々とお辞儀をした。あたしはチラリと横目で初老のその男を見る。あたしのお父さんがこのマンションのオーナーだ。いつもあたしをお嬢様って呼んでいる。ああ、その媚びた視線が嫌だ。鳥肌が立つ。以前はそこそこの大企業で学閥のおかげでそこそこのポジションにいたらしいけど、仕事できない人だから、リストラされて、このマンションの管理人に再就職してあたしやお父さんにへこへこしてるだけの人。人間こんな風になったらお終いだよね! あたしはその男の挨拶はスルーして、エントランスを早歩きで横切り、自動扉をくぐって、肌寒い冬空の下に出た。素足じゃなくてストッキングを履いてきた方が良かったかな? まあいいや。素足の方が男は嬉しいっしょ。えーと、迎えの車は……。

「おはようございます。皐お嬢様」

 あ、いた。

 あたし付きの運転手が黒塗りのジャガーを歩道に寄せて、窓を開けると挨拶をしてきた。

「さすが時間ぴったりだね、直美さん」あたしは後部座席から車内に乗り込むと直美さんの後頭部に声を投げた。