お風呂に水を張るためにバケツを持って何往復しただろうか。
やっと人一人浸かることが出来るくらいに水をため終わった頃にはかなり日もおちてしまっていた。
汗を流したいがために風呂に先に入ると決めたのにすでに土砂降りの雨を浴びた後の状況だ。
そして腰もいつ爆発してもおかしくないくらい張っている。
「もうこのまま風呂とか入らずに寝てもいいのではなかろうか」
いっそ水風呂に飛び込むのも手かもしれない。
「いやいや、初日からそんなことでどうするよ俺。ここまで来たらもうひと踏ん張りだ」
風呂の準備で一番の重労働は終わったのだ。
逆にここで止めてしまってはせっかくの苦労が水の泡というもの。
「よし、もうひと踏ん張りだ!」
そう決意すると俺は脱衣所の横にある扉から外に出る。
風呂の外にある窯の蓋を開けて、横に積んである薪の山から細い木の枝を選んで取り出し窯の中に並べる。
次にその上になるべく平たい薄めの薪を選んで入れる。
そして持ってきたガスバーナーにライターを使って着火。
ゴーッというバーナーの音を聞きながら火力調整をして、先程窯の中に積んだ細い枝を中心に火をつける。
「久々にやったけどなかなかいい感じに燃えるな」
パチパチと燃える木の弾ける音と良い香りが鼻孔をくすぐりだす。
ある程度火の勢いがついた所で太めの薪を焚べる。
同時に火が消えないようにうちわで風を中に送り込んでやるのだ。
そうするとしばらくくすぶった後、徐々に大きな薪に火が入る。
ここまでくればしめたもの。
後はこの火を消さない程度に薪を詰め込んで準備完了だ。
薪風呂はこの工程が楽しいのだけど、これを毎日やるかと言われれば面倒くさい。
バーナーのガスもライターかマッチでもいいんだが、この世界で手に入れば良いんだけど望み薄と思っていたほうが良いだろう。
いや、マッチくらいはあるかもしれないが。
「ある程度落ち着いたら一度近場の街に行ってみないとな」
女神様が街へ行商に行けばいいと言っていた位だからそれほど遠くない所にあるに違いない。
何がなくとも人間の生活には火を起こせる道具が必要なのだ。
人は二足歩行を手に入れたあと、火を使うようになって進化したのだから。
この世界にはこの世界なりの火付け器具があるはずだ。
もしかして火打ち石かもしれないが、その時は使い方もレクチャーしてもらわねばなるまい。
こっちの世界の文明レベルも調べないといけないしな。
流石にあっちの世界のように科学が発展してる気配はない。
空を飛行機が飛び交う様子もない。
もしかしたら俺達の世界よりもっと進んだ技術を持っていて俺に感知できない可能性も無きにしもあらずだが。
「異世界転生してファンタジー世界に来たと思ったら超未来でした……って」
しかしそう考えるとあの女神様、スキルのことだけじゃなく必要なことほとんど教えてくれなかったな。
わかってることと言えば一度滅亡しかけたあと、異世界から能力を持つ人を送り込むことによって立て直した世界って位だ。
「さてと、そろそろ湯加減良くなってるかな」
窯の中に数本追加の薪を放り込んでから家の中に戻る。
ガラッと風呂の扉を開けると中はいい感じに湯気で溢れていた。
「ふぅ、これでやっと風呂に入れる。さて、湯加減はっと――」
俺は浮かれた気持ちで軽く湯船に手を突っ込んだ。
「あっちぃいいいいいいいいいいいいい!!」
完全に油断した。
最近は自動制御のお風呂にしか入ってなかったから、薪風呂は温度調整が難しいということをすっかり忘れていたのだ。
「みっ、水!」
慌てて外に飛び出し、井戸まで裸足で走り手を冷やす。
幸い熱かっただけでやけどにはなっていないようだ。
こんな異世界の山奥で怪我したらどうすればよいのか、おれは改めてゾっとした。
本当のスローライフというのは言葉のイメージから考えていたものと違って命がけなのではなかろうか。
「これじゃあスローライフじゃなくてサバイバルライフじゃないのかな女神様ぁ」
俺はそう嘆きながら、風呂の温度を下げるため井戸と風呂の往復一人バケツリレーを繰り返すのだった。
やっと人一人浸かることが出来るくらいに水をため終わった頃にはかなり日もおちてしまっていた。
汗を流したいがために風呂に先に入ると決めたのにすでに土砂降りの雨を浴びた後の状況だ。
そして腰もいつ爆発してもおかしくないくらい張っている。
「もうこのまま風呂とか入らずに寝てもいいのではなかろうか」
いっそ水風呂に飛び込むのも手かもしれない。
「いやいや、初日からそんなことでどうするよ俺。ここまで来たらもうひと踏ん張りだ」
風呂の準備で一番の重労働は終わったのだ。
逆にここで止めてしまってはせっかくの苦労が水の泡というもの。
「よし、もうひと踏ん張りだ!」
そう決意すると俺は脱衣所の横にある扉から外に出る。
風呂の外にある窯の蓋を開けて、横に積んである薪の山から細い木の枝を選んで取り出し窯の中に並べる。
次にその上になるべく平たい薄めの薪を選んで入れる。
そして持ってきたガスバーナーにライターを使って着火。
ゴーッというバーナーの音を聞きながら火力調整をして、先程窯の中に積んだ細い枝を中心に火をつける。
「久々にやったけどなかなかいい感じに燃えるな」
パチパチと燃える木の弾ける音と良い香りが鼻孔をくすぐりだす。
ある程度火の勢いがついた所で太めの薪を焚べる。
同時に火が消えないようにうちわで風を中に送り込んでやるのだ。
そうするとしばらくくすぶった後、徐々に大きな薪に火が入る。
ここまでくればしめたもの。
後はこの火を消さない程度に薪を詰め込んで準備完了だ。
薪風呂はこの工程が楽しいのだけど、これを毎日やるかと言われれば面倒くさい。
バーナーのガスもライターかマッチでもいいんだが、この世界で手に入れば良いんだけど望み薄と思っていたほうが良いだろう。
いや、マッチくらいはあるかもしれないが。
「ある程度落ち着いたら一度近場の街に行ってみないとな」
女神様が街へ行商に行けばいいと言っていた位だからそれほど遠くない所にあるに違いない。
何がなくとも人間の生活には火を起こせる道具が必要なのだ。
人は二足歩行を手に入れたあと、火を使うようになって進化したのだから。
この世界にはこの世界なりの火付け器具があるはずだ。
もしかして火打ち石かもしれないが、その時は使い方もレクチャーしてもらわねばなるまい。
こっちの世界の文明レベルも調べないといけないしな。
流石にあっちの世界のように科学が発展してる気配はない。
空を飛行機が飛び交う様子もない。
もしかしたら俺達の世界よりもっと進んだ技術を持っていて俺に感知できない可能性も無きにしもあらずだが。
「異世界転生してファンタジー世界に来たと思ったら超未来でした……って」
しかしそう考えるとあの女神様、スキルのことだけじゃなく必要なことほとんど教えてくれなかったな。
わかってることと言えば一度滅亡しかけたあと、異世界から能力を持つ人を送り込むことによって立て直した世界って位だ。
「さてと、そろそろ湯加減良くなってるかな」
窯の中に数本追加の薪を放り込んでから家の中に戻る。
ガラッと風呂の扉を開けると中はいい感じに湯気で溢れていた。
「ふぅ、これでやっと風呂に入れる。さて、湯加減はっと――」
俺は浮かれた気持ちで軽く湯船に手を突っ込んだ。
「あっちぃいいいいいいいいいいいいい!!」
完全に油断した。
最近は自動制御のお風呂にしか入ってなかったから、薪風呂は温度調整が難しいということをすっかり忘れていたのだ。
「みっ、水!」
慌てて外に飛び出し、井戸まで裸足で走り手を冷やす。
幸い熱かっただけでやけどにはなっていないようだ。
こんな異世界の山奥で怪我したらどうすればよいのか、おれは改めてゾっとした。
本当のスローライフというのは言葉のイメージから考えていたものと違って命がけなのではなかろうか。
「これじゃあスローライフじゃなくてサバイバルライフじゃないのかな女神様ぁ」
俺はそう嘆きながら、風呂の温度を下げるため井戸と風呂の往復一人バケツリレーを繰り返すのだった。