「う、う~ん」
目を覚ますと、そこは畳敷きの部屋の中だった。
「ぐぁ~、頭がくらくらする」
二日酔いで目覚めた朝のように痛む頭を押さえながら上体を起こし周りを見回す。
そこは見慣れた部屋の中。
仕事帰りのワイシャツ姿のままである。
どうやら俺は酒を飲みすぎて、帰宅して早々眠ってしまったようだ。
最近は新人教育を任せられたりしてストレス発散によく飲むようになっていた。
それでも記憶をなくすほど飲むなんてことは今まで無かったんだが。
「それにしてもやけにリアルな夢だったな」
なんだか真っ白なところで、見たこともないような美人と出会う夢だ。
せっかく美人さんと一つのテーブルでお茶していたのに、そこに色っぽい雰囲気が皆無だったのが解せぬ。
「しかも俺が死んだとか、異世界とかわけがわからん」
昔から小説とかを勉強の合間に息抜きで読んではいたが、夢にまで見たのは初めてだ。
よっぽど俺は現実逃避したいくらい疲れていたらしい。
少し寝癖の出来た髪を手ですきながら俺は壁にかかった時計に目をやる。
その針が示す時間は朝6時10分。
俺にとって救いなのは、職場が近いおかげで結構朝遅くまで眠っていられる事か。
前に上司が郊外に一軒家を建てたはいいが、通勤に二時間近くかかるとボヤいてたのを思い出す。
だったらそんな家買わなければいいのにと思ったが、流石に口には出さなかった。
それに、24時間体制の我が社では、住んでいる場所が近いというのは逆に緊急の時にすぐに呼び出せる便利な社員扱いされるというのもある。
一長一短だ。
そう、たしか昨日も一度帰ってきてから夜中に呼び出されて緊急の案件を処理した後、帰りに途中空いてた居酒屋で飲んで……。
「とりあえずシャワー浴びなきゃな」
先ほどまでの頭のふらつきが治まったところで俺は万年床から立ち上がろうとした。
じゃりっ。
起き上がるために床についた手に何かが当たり、そんな音をたてる。
寝る前に布団の横に物を置いた記憶はないんだがなと目を向けると――――。
「おいおい、マジかよ」
そこにはさっき見た夢の中で最後に自称女神様から手渡された小袋が夢の中と同じように五袋転がっていたのだった。
一瞬で目が覚めた俺は、慌てて立ち上がると窓に駆け寄り外を確認する。
窓の外には少し荒れた畑と、そしてその先には――――。
「森の中……だと」
まさか。
まさかまさか。
俺は部屋を見回す。
この部屋は俺の……俺の部屋だ。
転がるように玄関に向かい家の玄関扉を勢いよく開き外に飛び出す。
眼の前にはいつも見ていた景色とその向こうに突然存在する森。
そして恐る恐る振り返った俺の目に映ったその場所。
「俺の……家だと」
そこには俺が、俺と両親がずっと暮らしていた田舎の、あの一軒家が建っていたのだった。
「はは……そりゃ知ってる部屋だわ。俺が高校卒業して就職するまで住んでいた部屋だもんな」
ということはやっぱりあれは夢じゃなく、俺は本当に死んでしまったのか。
これで田中家はもうほとんど顔を合わさなくなってしまった妹だけになってしまったんだな。
最後まで迷惑をかけてしまった。
一応生命保険は親族に渡されるはずだからそれで許してくれ……。
あいつにとっては糞兄貴が死んでザマァ見ろと思ってるかもしれないけどな。
ほんと、どうしてあそこまで俺たちは仲を違えてしまったんだろうな。
さて、それにしてもこの家だ。
まさか家ごと転移させたわけじゃないだろう。
たしかに今はもう誰も住んでないとはいっても、そんな事したらあっちで大騒ぎになる。
だから俺の目の前にあるこの家はレプリカに違いないのだが。
あの駄女神め。
なにが『がんばっちゃいました』だよ。
頑張りすぎだ。
多分俺の記憶を読んで作ったのだろうその家に最後に帰ったのはいつだったろうか。
俺はその家の周りをぐるりと一周する。
「きちんと井戸も再現されてるんだな」
家の脇、畑との間に手押し式ポンプの井戸があった。
父親が田舎の人里から少し離れた所にこの家を買った時にもとから付いていたのだ。
いつもは水道水があるので使わなかったが、夏とかこの井戸でスイカを冷やしたりしてたんだよなぁ。
「これって飾りじゃなくて動くのかな?」
俺はそのポンプの取っ手を両手で握りしめ上下に動かす。
最初は思わぬ軽さに少しよろめいたが、何度か動かすと徐々に抵抗を感じるようになり、やがてその排出口から透明な水が吹き出した。
「おおっ、見かけだけだと思ってたけど本当に使えるんだな」
しかし赤錆も出ない所を見ると古臭い見かけと違って中身は新品なのだろうか。
俺はしばらくその懐かしい感触を楽しみながら、汲み出した水で顔を洗ったあと、一口飲んでみる。
「くっはぁ~、なにこれ美味い」
記憶の中にある井戸水より美味しい気がする。
と言っても、俺がこの井戸水を飲んだのはもう十数年以上前の事だから、都会の水に馴れたせいで余計に美味しく感じるのかもしれない。
しばらく井戸で休憩をした後、俺はとりあえず現状把握するために腰を上げると家に向かう。
家の中のものがどこまで使えるのか、そして何があるのかを確認しなくてはならない。
これから俺はこの世界で、この家で生きていかなければならないのだから。
目を覚ますと、そこは畳敷きの部屋の中だった。
「ぐぁ~、頭がくらくらする」
二日酔いで目覚めた朝のように痛む頭を押さえながら上体を起こし周りを見回す。
そこは見慣れた部屋の中。
仕事帰りのワイシャツ姿のままである。
どうやら俺は酒を飲みすぎて、帰宅して早々眠ってしまったようだ。
最近は新人教育を任せられたりしてストレス発散によく飲むようになっていた。
それでも記憶をなくすほど飲むなんてことは今まで無かったんだが。
「それにしてもやけにリアルな夢だったな」
なんだか真っ白なところで、見たこともないような美人と出会う夢だ。
せっかく美人さんと一つのテーブルでお茶していたのに、そこに色っぽい雰囲気が皆無だったのが解せぬ。
「しかも俺が死んだとか、異世界とかわけがわからん」
昔から小説とかを勉強の合間に息抜きで読んではいたが、夢にまで見たのは初めてだ。
よっぽど俺は現実逃避したいくらい疲れていたらしい。
少し寝癖の出来た髪を手ですきながら俺は壁にかかった時計に目をやる。
その針が示す時間は朝6時10分。
俺にとって救いなのは、職場が近いおかげで結構朝遅くまで眠っていられる事か。
前に上司が郊外に一軒家を建てたはいいが、通勤に二時間近くかかるとボヤいてたのを思い出す。
だったらそんな家買わなければいいのにと思ったが、流石に口には出さなかった。
それに、24時間体制の我が社では、住んでいる場所が近いというのは逆に緊急の時にすぐに呼び出せる便利な社員扱いされるというのもある。
一長一短だ。
そう、たしか昨日も一度帰ってきてから夜中に呼び出されて緊急の案件を処理した後、帰りに途中空いてた居酒屋で飲んで……。
「とりあえずシャワー浴びなきゃな」
先ほどまでの頭のふらつきが治まったところで俺は万年床から立ち上がろうとした。
じゃりっ。
起き上がるために床についた手に何かが当たり、そんな音をたてる。
寝る前に布団の横に物を置いた記憶はないんだがなと目を向けると――――。
「おいおい、マジかよ」
そこにはさっき見た夢の中で最後に自称女神様から手渡された小袋が夢の中と同じように五袋転がっていたのだった。
一瞬で目が覚めた俺は、慌てて立ち上がると窓に駆け寄り外を確認する。
窓の外には少し荒れた畑と、そしてその先には――――。
「森の中……だと」
まさか。
まさかまさか。
俺は部屋を見回す。
この部屋は俺の……俺の部屋だ。
転がるように玄関に向かい家の玄関扉を勢いよく開き外に飛び出す。
眼の前にはいつも見ていた景色とその向こうに突然存在する森。
そして恐る恐る振り返った俺の目に映ったその場所。
「俺の……家だと」
そこには俺が、俺と両親がずっと暮らしていた田舎の、あの一軒家が建っていたのだった。
「はは……そりゃ知ってる部屋だわ。俺が高校卒業して就職するまで住んでいた部屋だもんな」
ということはやっぱりあれは夢じゃなく、俺は本当に死んでしまったのか。
これで田中家はもうほとんど顔を合わさなくなってしまった妹だけになってしまったんだな。
最後まで迷惑をかけてしまった。
一応生命保険は親族に渡されるはずだからそれで許してくれ……。
あいつにとっては糞兄貴が死んでザマァ見ろと思ってるかもしれないけどな。
ほんと、どうしてあそこまで俺たちは仲を違えてしまったんだろうな。
さて、それにしてもこの家だ。
まさか家ごと転移させたわけじゃないだろう。
たしかに今はもう誰も住んでないとはいっても、そんな事したらあっちで大騒ぎになる。
だから俺の目の前にあるこの家はレプリカに違いないのだが。
あの駄女神め。
なにが『がんばっちゃいました』だよ。
頑張りすぎだ。
多分俺の記憶を読んで作ったのだろうその家に最後に帰ったのはいつだったろうか。
俺はその家の周りをぐるりと一周する。
「きちんと井戸も再現されてるんだな」
家の脇、畑との間に手押し式ポンプの井戸があった。
父親が田舎の人里から少し離れた所にこの家を買った時にもとから付いていたのだ。
いつもは水道水があるので使わなかったが、夏とかこの井戸でスイカを冷やしたりしてたんだよなぁ。
「これって飾りじゃなくて動くのかな?」
俺はそのポンプの取っ手を両手で握りしめ上下に動かす。
最初は思わぬ軽さに少しよろめいたが、何度か動かすと徐々に抵抗を感じるようになり、やがてその排出口から透明な水が吹き出した。
「おおっ、見かけだけだと思ってたけど本当に使えるんだな」
しかし赤錆も出ない所を見ると古臭い見かけと違って中身は新品なのだろうか。
俺はしばらくその懐かしい感触を楽しみながら、汲み出した水で顔を洗ったあと、一口飲んでみる。
「くっはぁ~、なにこれ美味い」
記憶の中にある井戸水より美味しい気がする。
と言っても、俺がこの井戸水を飲んだのはもう十数年以上前の事だから、都会の水に馴れたせいで余計に美味しく感じるのかもしれない。
しばらく井戸で休憩をした後、俺はとりあえず現状把握するために腰を上げると家に向かう。
家の中のものがどこまで使えるのか、そして何があるのかを確認しなくてはならない。
これから俺はこの世界で、この家で生きていかなければならないのだから。