「うん。純一君は?」

『俺は平気。今、会社の人達と、避難しているとこ。』

純一の働いている場所は、仙台新港の近くだ。

「純一君、津波は?」

『ああ、津波警報が鳴り響いてるよ。一刻も早く、ここから逃げなきゃな。』

「早く、早く逃げて!」

朝美は不安でたまらなかった。


だが返ってきたのは、純一の笑い声だった。

『大丈夫だよ、朝美。朝美を置いて、どこにも行きはしないから。』

いつもの、純一の優しい言葉だ。

『また後で、掛け直す。』

「うん、また。」

そして、純一からの電話は切れた。


電話が終わった後、朝美は区役所の仲間の中に入っていく。

「ご家族からか?」

見た事もない、眼鏡をかけたおじさんに声を掛けられた。