──目を覚ます。
そこは見知らぬ部屋だった。
けれど、はじめに聞こえたのは耳慣れた声。

「和泉ねぇさま!」
「和泉ねぇ!」
「……ふたばちゃん、一弥さん」

抱きついてくる二人。
その向こうに、ニコニコと笑うみつ子を抱いて涙を堪えている次郎が見えた。けれど、ここは寒々しい救児院ではない。

(ここは……? なんだか、すごいお屋敷だけれど)

視線を彷徨わせていると、心地よく響く低い声が和泉の名を呼んだ。

「──和泉さん」
「虹治さま!」

その途端。
ぎゅう、と強い力で、一弥とふたばごと抱きしめられた。虹治がわずかに震えるのが伝わってくる。

(そうだ、私、唐紅の家で……虹治さまに……)

火箸で打たれたはずの背中には、痛みは感じない。でも、あの時気を失ってしまったのだろう。虹治が、あの場所から自分を助け出してくれたのだろうか。

でも、ここはどこだ?
しかも、なぜ子どもたちも一緒に?

疑問に疑問が重なって、どうしたものかと思っていると。

「おやおや、目が覚めたようだねー」
「っ、あなたは」
「悠祈だ。我が家秘伝の癒し薬が効いたようでよかった」

大和國の帝、悠祈だった。

「唐紅とかいう家の者が、龍に襲われたとかいう妄言(・・)を流布してると聞いてねー。妙な噂は放置したくないし、ちょっと動かせてもらったよ」
「……おかげさまで、色々と助かりましたよ」

いつの間にか、銀夜まで立っていた。

あの日。
銀夜の先導で唐紅家まで和泉を追いかけてきた虹治は、和泉への仕打ちを目の当たりにして我を忘れて暴れ回ったらしい。
唐紅家の人間は錯乱し、龍に襲われたと喚くようになり──そのまま治療院に隔離されたとか。

この家は、滝ヶ原虹治が帝都に構える屋敷──通称『龍宮』。ここでみつ子と和泉の手当てが行われたそうだ。

「その子たち預かるなら、あの家は狭すぎますからね」

と肩をすくめる銀夜は子どもたちにすっかり慕われている様子。

(私なんかのために……こんなに皆さんが良くしてくれるなんて……)

一連の話を目を丸くして聞いている和泉に、虹治は囁く。

「……危険から守れず、すまない」

まるで、迷子のような声だ。
そんな虹治の姿に、じんと胸が熱くなる。
気遣わしげに、虹治が言った。

「そうだ、何か食べたいものはないか? 君、ずっと眠っていたのだから」
「……そう、ですね」

ならば、と和泉は微笑む。

「金平糖を、食べたいです」

あの小さな砂糖の星粒。
たぶんあれは──幸せの形をしているから。