物心ついたときには養女として生活していたこと。
それ以前の幸せな記憶は本当におぼろげで、ほとんど覚えていないこと。
顔も覚えていない姉の仕送りがあって、本当に感謝していること。
心の拠り所であった、救児院の子どもたちとの暮らしのこと。
とっくに朝食は食べ終えているのに。
次々に言葉が溢れてしまうことに、和泉自身が困惑していた。
相変わらず凍りついたような瞳で無表情な虹治だが、じっと黙って、時折、相槌を控えめに打ちながら和泉の話を聞いていた。
その青い瞳に見つめられると、不思議と何も隠し立てができないような気がした。
でも、それはなんだか心地よくて。
安心するような気持ちだ。
「……君は、少しここで養生しなさい」
ふと、話が途切れたとき。
虹治が言った。
「え?」
「昨夜は、いつ出て行ってもいいと言ったが、撤回する。今の話を聞く限り、君には休養と時間が必要だ」
「い、いえ、休養など……」
「身の回りのことは銀夜がしてくれる。このような食事は支度できないが、それなりのものは揃えられるはずだ」
「でも……」
まずいことをした。
同情を引こうとしたと思われたかもしれない。唐紅の家にいたときに、ひどい風邪をひいたことがあった。あのときも、事情を説明したところ「同情をひいて怠けようとしている」と詰られた。
「あのねぇ、虹治さま」
虹治と和泉が朝食をとるあいだ、縁側に座ってぼんやりと外を眺めていた銀夜が楽しげに口を開いた。
「それじゃあ、許嫁殿が怯えてしまいますよ」
「…………なに?」
「まず顔が怖いし、声も硬い。せっかくあなたが珍しく人のことに首突っ込んで心配していらっしゃるのに。それじゃ伝わるものも伝わらないですって」
銀夜の忠言に、虹治はさらに表情を険しくして固まってしまった。
「…………和泉さん」
「は、はい」
「客観的な意見を聞かせてほしい。俺は、怖いか?」
それ以前の幸せな記憶は本当におぼろげで、ほとんど覚えていないこと。
顔も覚えていない姉の仕送りがあって、本当に感謝していること。
心の拠り所であった、救児院の子どもたちとの暮らしのこと。
とっくに朝食は食べ終えているのに。
次々に言葉が溢れてしまうことに、和泉自身が困惑していた。
相変わらず凍りついたような瞳で無表情な虹治だが、じっと黙って、時折、相槌を控えめに打ちながら和泉の話を聞いていた。
その青い瞳に見つめられると、不思議と何も隠し立てができないような気がした。
でも、それはなんだか心地よくて。
安心するような気持ちだ。
「……君は、少しここで養生しなさい」
ふと、話が途切れたとき。
虹治が言った。
「え?」
「昨夜は、いつ出て行ってもいいと言ったが、撤回する。今の話を聞く限り、君には休養と時間が必要だ」
「い、いえ、休養など……」
「身の回りのことは銀夜がしてくれる。このような食事は支度できないが、それなりのものは揃えられるはずだ」
「でも……」
まずいことをした。
同情を引こうとしたと思われたかもしれない。唐紅の家にいたときに、ひどい風邪をひいたことがあった。あのときも、事情を説明したところ「同情をひいて怠けようとしている」と詰られた。
「あのねぇ、虹治さま」
虹治と和泉が朝食をとるあいだ、縁側に座ってぼんやりと外を眺めていた銀夜が楽しげに口を開いた。
「それじゃあ、許嫁殿が怯えてしまいますよ」
「…………なに?」
「まず顔が怖いし、声も硬い。せっかくあなたが珍しく人のことに首突っ込んで心配していらっしゃるのに。それじゃ伝わるものも伝わらないですって」
銀夜の忠言に、虹治はさらに表情を険しくして固まってしまった。
「…………和泉さん」
「は、はい」
「客観的な意見を聞かせてほしい。俺は、怖いか?」