「そなたの衣も用意するし、身ひとつでくればいい。裁縫で稼ぐより楽だし、叔母君も喜ぶのではないか?」

 どうしよう。
 心が動くけれど、いい話には裏があるものだ。

「えっと、どのようなお仕事なんでしょう?」

 うむ、と彼はうなずき「他愛もない仕事だよ」と言う。
「燈台の火を灯すとか? 朝の手水鉢を用意するとか」

 それはおかしい。
 仮にも右大臣家となれば、そのような仕事をする使用人など、溢れるほどいるだろう。
 疑わしげに目を細めると、彼は扇を手に悩ましげなため息をつく。

「そなたは(われ)を見てどう思う?」
「はて。どうと言われましても」

 さあさあと促され、仕方なく思いつくままに答えた。

「仕立てのよいお召し物といい、さすがに殿上人は違うなぁと思いました。でございます」
「それだよ」

 ん? 意味がわからない。

「先頃、暇を出した女房は、私が寝ているうちに寝所に入り込んでな」
「えっ、刺客だったのですか?」

 くっくっくと彼は笑う。

「ある意味刺客だが少し違う。女の目的は私の、いわば子種だな」

 なんと。

「その前の女房もそうであった。湯殿係と入れ替わり、自ら衣を捨てて抱きついてきてな。男なら一刀両断にしてくれるが、女人となればそうもいかぬし」
「ははぁ、なるほど。それは大変ですね」

 あわよくば頭中将の妻になろうと皆必死なんだわ。