うむ、と公達はうなずく。

「ところで、叔母とは?」
「母が三年前に亡くなりまして、今は叔母一家と暮らしております」

「ん? だがそなたの家なのだろう?」
「はい。ですが私が子どもだったので、心配して移り住んでくれたのです」

「そうか……」

 なにを思うのか、公達は扇をぴたぴたと頬にあてながら考え込む。
 ジッと見ていると、ふと顔を上げた。

「希々姫よ、うちで働かぬか?」

 ん?

「実はちょうど女房を捜しているのだ」

 女房とは女性の使用人だ。
 上流貴族の家ともなると身の回りの世話をする女房は、既婚未婚を問わず身元のはっきりした貴族の女性がなる。

「私は頭中将(とうのちゅうじょう)、父は右大臣で屋敷は一条にある」
 突然、公達は名乗った。

「えっ」と思わず声が漏れる。

 宮中や貴族社会に縁遠い私でも知っている。
 右大臣は左大臣と並び権力を二分する名門貴族だし、その家門の御曹司で頭中将といえば、今を時めく出世頭だ。

 偉ぶるわけでもなく飄々としている様子からは、にわかに信じがたいけれど、身なりを見れば納得するしかない。

 この人は本来なら話をする機会など一生ないはずの、超がつく大物である。

 そんな人の女房?

「手当は弾むぞ? 宮中の上級女官並みに出してやろう」

 うっ……。