なにかがおかしい。

 叔母という女は、貴族の女らしい身なりをしていた。
 希々が、使用人のような古びた衣を着ていたのとは対照的にだ。

 巻き上がった御簾の下から見えたのはわずかだが、衣はそれなりに上等であるとわかったし、山吹という叔母の娘も、華やいだ小袿(こうちぎ)を着ていた。

 急な訪問であったから着替えたわけではないだろう。
 普段からあの服装なのだ。

 希々は働かねば食うに困ると言っていたが、叔母の話では希々の母から叔母が譲り受けた荘園があるという。並んだ料理も決して粗末ではなかった。

『築地塀も直そうと思っているのですが、美しい萩が見たいと人々が言うもので』

『希々姫はなぜ東市に?』
『あの子は変わり者なんです。侍女の真似事が好きなものですから』

 希々はあの身なりでも特に不満そうではなかった。溌剌として明るかったが――。

 やはり腑に落ちない。

 それに、女の金切り声で『みっともない』と、聞こえたのは間違いない。誰が誰に対して怒鳴ったのかはわからないが。

『希々は髪を洗っておりますゆえ、出て来られませぬ』
 そう言われ引き下がるしかなく帰ってきたが、今日は三日空けての二度目の訪問である。

 春真っ盛りの暖かく晴れた日が続いているから髪も乾いたはず、会えるだろう。

「朝霧さま」
 訪問の挨拶に行った彦丸が戻ってきた。