五日目になっても、コルゼラウデの首都カラゼスでの祭りは盛り上がりを見せていた。裏通りに至るまで、人の波が絶えることはない。
新国王の即位に伴う特別な祝祭は、七日間続くのが習いである。約三十年ぶりの祭りであり、内戦の危機が当面は去ったことも影響して、誰もが浮かれずにはいられない空気がそこかしこに満ちている。
そんな首都の通りを、ラグニードは歩いていた。人混みの隙間を縫うように早足で、目指す場所へと急ぐ。何度か呼び込みに声をかけられたが、いずれも無視した。元より、祭りが目的でここに滞在しているわけではないのだ。
いくつかの角を曲がり、界隈では最大の酒場にたどり着く。普段から店の外にも席を設けており、今は祭りのためにさらに席数を増やしている。
その一角、飲み騒ぐ集団の隣で、長身の人物が一人、考え込むように肘をついて座っていた。周囲に遠慮がちに静かに飲んでいるふうに見えなくもないが、彼の前にある酒にはほとんど手を付けられていないであろうと、ラグニードは予測していた。
席に近づいていくと、相手が素早く顔を上げる。表情には期待と不安がない交ぜになっていて、その裏には、色濃い罪の意識が根付いていることも知っていた。
こちらが声をかける前に、アディは急いた口調で「何か分かったか?」と尋ねてくる。思った通り、器の中の酒は減ったようには見えない。
彼に頼まれて調べていたのは女の行方だった──ボロムに予告されていた依頼を請け、半月前、コルゼラウデ王子ユリス・ルーを支持する貴族の命により、王女エイミア・ライが身を隠す屋敷に忍び込んだ……その夜に見た女兵士。
気を失った女を、アディはとても大事そうに扱っていた。……いや、その時はまだ女だとは思っていなかった。だから彼が躊躇なく、ラグニードが手渡した気付け用の酒を口移しで飲ませた時には、少なからずぎょっとしたものだ。
様子を見ているうちにもしやと思い、中を探りに行きかけたアディが「彼女を頼む」と言ったことで事実がはっきりした。
そしてふいに思い当たった……この女こそが、例の指輪の持ち主ではないかと。
最初にその指輪を見た時のことは、今でもよく覚えている。アディが何かの拍子で袖をまくろうとしたものの動作を止めたのを視界の隅に捉えて、何気なくそちらを向いたらたまたま目に入ったのだ。
輪の細さから女物であることに気づき、驚いたあまり、反射的にからかい混じりの言葉を口にした。返ってきた反応は妙に曰くありげで、さらに意外の念を増した。預かり物だと言ったアディの口調は、容易に語ることのできない複雑さをはらんでいたのである。
指輪に関わる女にアディが強いこだわりを覚えているのは、長年近くで接してきたラグニードから見れば、その時からすでに明らかだった。