椅子に座った彼女は、真っすぐ俺の方を向いた。

大きな瞳に吸い込まれそうで、俺はうつむいた。


「診断の結果。藤間さんの腫瘍は、悪性腫瘍でした。」

「悪性腫瘍って言うと、癌ですか。」

「その通りです。」

いつもならここで、患者はショックを受けて、がっくりくるのだが、藤間さんは、まるで噂話を聞くように、『へえ。』と頷いた。

「ですが、見つかったのが早期でよかった。手術すれば治る段階です。」

「そうですか。」

その時は、物分かりのいい患者だと思っていた。

「早速手術をいつにするか、決めましょう。」

そして手術の説明書を、彼女に渡そうとした時だ。