風を切って走っていく馬に合わせて巫女も軽やかに手綱を操っていく。
 おかしい。葵は馬に乗れないはずだ。それに巫女からは濃い血の匂いがする。女戦士としての勘が、巫女の異質さを訴える。
 巴はいまになって馬上の巫女が自分の知る人物ではない可能性に気づく。「あなた誰」と言おうとするがあまりの速さに舌を切りそうで、結局何も言えないまま。
 首が保管されている場所まで来ていた。暗闇で見えないが、血の匂いが漂っている。馬を降りた巴の足元には見張りの人間らしき遺体が転がっていた。松明をたく。淡い光が照らすその先にも何体もの遺体と、同志の奪われた首が列をなしている。ここにいた人間はすべて死んでいる。その光景に巴が顔をしかめても巫女は素知らぬ顔をしている。
 こんな風に、皆殺しを厭わない人間を、巴は知っている。譲れない目的のためなら、自らを鬼にする人間を。
「……あなたは」
 義仲、と名を呼ぼうとする巴に、巫女は嗤う。
「彼は、死んだんだよ」
 そして、無造作に拾い上げた義仲の首を巴に押し付け、松明を持ってひとり白馬に乗って去っていく。