寿永二年。この夏、平家が三種の神器を持ったまま幼い安徳帝を連れて西国へ落ちていったことで、天皇が京からいなくなってしまった。
 その後まもなく、後白河法皇があらたに四の宮を即位させ、わずか四歳の後鳥羽帝が誕生したが、京と西国とでふたりの天皇がいるという異様な事態は霜月に入ったいまも続いている。
 東国、鎌倉で征夷大将軍に命じられた源頼朝が率いる源氏の兵が平家討伐に向けて上洛してくるという噂はきこえてくるものの、京の治安は悪いままだ。
 それもこれも平家を追い落とし京入りした源義仲とその軍が治安維持を怠りあまつさえ盗賊まがいの行為をしているからだ。
 ……と、後白河法皇をはじめとした公家たちはいまになって悪態をついている。おまけに自分を見限り、従兄であり仇敵である頼朝に自分を追討させるなどというふざけた話まで義仲の耳に届いている。