「私宮城に引っ越そうかなー」


昼休み、自分のデスクでコンビニのサンドウィッチをかじる。


「マジで!?もうそんな決意したの!?」


向かいの席でカップヌードルをすする笹森が目を見開いた。
さすがにもう夏、暑くて屋上でのんびりランチは無理だ。


「それもアリかなーって思っちゃって」

「…松永は?なんて言ってんの?」

「まだ話してないよ、ハッキリ決めたわけじゃないから。それもアリかなーってぐらいで」

「ふーん…」


パックと2口目のサンドウィッチをかじる。ついついラクすぎてコンビニのたまごサンドで済ませてしまう、これもよくないなってのはわかってるんだけど。


「真中がそうしたいならいいと思うけど…、いいのかよ」

「いや、どっちよ。何言ってんの?」

「ここで、デザインの仕事したかったんじゃねぇの?」


いつもとんちんかんなことしか言わないくせに。そんな真剣な顔しないでよ。


「したかったけど…、別にここじゃなくてもデザインの仕事はできるし」


そんなこと言われたら笹森の顔見れないじゃん。


「私にここじゃなきゃいけない理由なんてないの。笹森と違って、笹森は…ここがよかったんでしょ?」

「あぁ、まぁ。ここで働くのは夢だったし、まだ叶えられてないことたくさんあるし」

「私にはそれがないんだよ」


昔から何か作るのが好きで、いつか自分がデザインしたものがみんなの目に映ってくれたらいい…そんな淡い夢は抱いていた。

でもそれって、ここにいる理由ではなくて。

私が本当に叶えたい夢はそれじゃない。


「…真中の人生は男なの?」

「は?何それ感じ悪っ」

「いや、悪く言ったつもりはないけど!」


はぁっと息を吐く。

サンドウィッチと一緒に買ったパック牛乳にストローを差した。 


「…でもそうかな」


雪ちゃんの夢が叶うのを隣で見ていたかった。

仕事から帰ってきた雪ちゃんにご飯作って、お風呂沸かして、いつかは子供が出来ちゃったりして。

毎日いってらっしゃいとおかえりなさいを言うの。


私の夢は東京じゃなかった。


地元でつつましく彼と一緒に生きていきたかったの。


「…じゃあもうここ辞めるわけ?」

「もうここにはそれがないんだもん、いる意味がないよ」


私にここは似合わない。
寂しさばかり抱えてここで生きていたくない。


「宏太くん、私と宮城で夢を抱いてくれるかな」


「…その夢、絶対叶えてくれるよ松永なら」


そうだと、いいな。
そしたら私もラクになれる。


「あ、そうだ笹森!言いそびれてたんだけど」

「ん?何を?」

「名刺ありがとね、志田さんに渡してくれて」

「それは、俺別に…結局何もなってないし」

「ううん、ありがと」


私を思ってしてくれたこと、それだけで十分嬉しい。だから着いた決心もあるし。