「宮城には東京タワーないの?」

「宮城だからあるわけないよ」


ふふふって笑った。
冗談だったけど、半分くらい本気であったらいいのにって思った。


「東京タワー好きなの?」

「うん…、キレイじゃん」

「キレイだけどね」

「…昔、彼とよく見てたんだ」


東京タワーには消灯の瞬間を恋人と一緒に見ると幸せになれるというジンクスがある。


「お互い忙しかったからいっつも夜遅くて、東京タワー見ながら夢語ったりしちゃってね」


東京タワーから光りが消えたら電話を切る合図。

また明日も仕事がんばろうねって電話を切る。


「…楽しかったな」


それが私たちの決まりで、会えなくても同じ東京にいることを教えてくれる気がしてた。


「好きな気持ちって永遠じゃないよね」


まだ地元にいた頃、ずっと同じ時間を過ごしていた。

それがあたりまえすぎてこの先も変わらないでいられるって思ってた。

彼より好きな人は絶対にこの先出会えない。

それだけで人生やっていけると思ってた。

でも大人になった今、そんな世の中なんかないってわかった。


「…その人、どんな人だったの?」

「んー、ちょっと子供っぽいんだけど優しくて、頼りになるし、大したことない事でも一緒に笑ってくれてね!…好きだったんだよね」


誰よりずっと。
私より好きな人なんかいないよ。

思い出してしまったあの頃の気持ち。

ずっとしまい込んで来たはずだったのに。


「…今も好きなんだね」


こぼれそうになる涙を見られないように俯いた。

怖くて、もうあの笑顔に会えないんじゃないかって思うとここから動けない。


好きな気持ちは永遠じゃないよ、だから名刺を返したんでしょ?


しまい込むんじゃない、捨てるんだ。



雪ちゃんの連絡先を消した。