というような表情で、目線を返した。どうして年俸制で月額均等払いに変更したいのか、理由はわからないが、詮索する気もなかった。福原は、不承不承という面持ちで、グレーのタイト・スカートのしわを伸ばしながら自席に戻った。三人とも自席についたが、カウンターの内側の事務室全体が30平米程しかないので、三人の距離は日常会話の成立する範囲内にある。金井がひとりごとのように同じようなことを再度話し出した。
「皆さんもご存じのとおり、今度の政権交代で、経産省からの補助金が削られる方向で調整されています。予算上、予備費のようなものが削られる情勢なので、年俸制にして、残業手当のようなものはなくなります。最悪の場合、この財団法人は取りつぶされるかも知れません。そうでなくても、どこかの似たような財団法人に吸収されるか、合併されるかもしれません。どっちにしても、うちみたいな零細な財団法人はなくなる可能性が高い。まあ、単年度契約にしたのは、予算上のこともあるけど、皆さんもそのつもりでという含みもあります」
と言い訳のようにして言う。
 土岐は椅子に腰掛けて、大学専任教員の職に応募していることを金井に話すべきかどうか考えていた。来年度の年俸制を検討しているということは、土岐を来年度のスタッフとして構想に入れているということを意味する。金井には上司として、それなりに世話になっているので、迷惑のかからない対応をする必要がある。年度末に直前になって、退職を申し出れば、土岐の後任のリクルートで多少の迷惑をかけることになるかも知れない。
 大学専任教員の口に声を掛けてくれたのは、土岐の指導教授だった岩槻だった。彼の話によれば、十一月中にははっきりするということではあった。それから申し出ても遅くないだろうし、まだ確定していない段階で言い出せば、逆に余計な心配をかけることになるかもしれない。それに万が一の場合のセーフティネットとして、いまのポジションを確保しておいた方が得策だと判断した。
(大学の職については確定したときに言えばいい)
と土岐は自分に言い聞かせた。それに、大学の専任教員のポストを目指していることは、一昨年の四月に東亜クラブに着任したときから、金井には明言していた。
 四時前に土岐がトイレに立つと、福原が追いかけて来た。土岐がトイレから出てくると福原がエレベーターホール脇の廊下で待っていた。