翌日。金曜日の早朝。土岐は犯行日の前の深夜から真田がいたとアリバイを主張しているネット喫茶に向かった。好奇というその喫茶店は上野駅から中央通りを御徒町方向へ五分ほど歩いた右手の路地を少し入ったところにあった。好奇という黒地に白字の怪しげな看板が幅員三メートルあまりの狭い道路に突き出ていた。店内は薄暗い。、迷路のような通路の両側にべニアで囲った個室が並んでいた。壁紙が黒い。入店したとき、利用客の一人が、受付脇のフリードリンクを取りに来ていた。受付でアルバイトの店員から利用方法を聞いた。三十分だけ利用することにした。指定されたブースのパソコンは中国製の廉価版だ。キーボードの白い文字がいくつか、擦り切れて見えなくなっていた。机の上もキーボードもマウスも、ねっとりとべたついている。パソコンを立ち上げた。ネットサーフィンをしながら、事件当日、真田がこの店を九時すぎに出たことを宇多から受け取ったレポートで確認した。この時刻は、真田の主張するアリバイも検察のストーリーも同じだ。三十分たって、受付で会計を済ませた。領収書を受け取りながら、受付のアルバイト風の若い男に聞いてみた。
「3か月前の木曜、この店を利用した人が、殺人事件起こしたらしいんですが、知ってます?」
 若い男のよどんだ目が暗く低い天井をななめに見つめた。
「ええ。オレも刑事さんに質問されたんで。でも木曜はオレのシフトじゃないんで」
 土岐は、その日の受付担当者の名前と携帯電話番号を聞き出した。スマホに登録した。九時過ぎに、穴倉のような店を出た。外光がまぶしい。
 事件当日、ネット喫茶から出て、真田はバス停に向かったと言う。検察は上野駅方向に向かったとしている。土岐は先に検察のストーリーに沿ってルート検証することにした。
 中央通りに出た最初のT字路に擦り切れた横断歩道がある。渡らずに左に折れればバス停がある。バス停に行かずに、まっすぐ行くと上野駅。途中に交番がある。