と亜衣子に言われるまでもなく、死因別にそのデータを分解し始めていた。最初に交通事故死の地域別格差の棒グラフを出した。表計算ソフトに縦軸に未成年人口千人当たりの交通事故死者数と横軸に都道府県名を指定した。縦軸の値を降順でソートした。リターンキーを小気味よく叩く。一瞬のうちに四十七本の棒グラフが高い順に描き出された。戦後復帰した沖縄だけは古いデータがない分、値が小さくなっていた。
「大都市圏は少ないんだ。東京、神奈川、埼玉、大阪なんか低いほうのトップファイブにはいってる」
と土岐が亜衣子の同意を求める。
「大都市圏は信号も横断歩道も車も歩行者も多いから車はスピードを出せない。接触事故はかなり多いけど死亡事故迄には至らない。北海道や愛知県と車の走り方が違うのよ」
と亜衣子が解説した。
 真冬の外気の明るさがあせてきた。セピア色に変色してきた。窓からブラインド越しに斑に差し込んでくる陽光がなだらかに衰えてきた。土岐と亜衣子の手元にできる影が色あせて少しぼやけてきた。
 小さく叫んで土岐がキーボードを叩く手を宙で止めた。
「未成年者の交通事故死者数を含めた全体の事故死者数では大都市が統計的誤差の範囲内とは思われるけど、全国平均を少し上回っていたのに、人数的には絶対数で一番多い交通事故死者数の未成年人口千人当たりの平均では、大都市が全国平均をかなり下回ってる」
「大都市の交通事故死の数字が少し小さい?それがどうかした?」と亜衣子が小鼻を少し突き出す。その先を促すように聞く。
「人口が多ければ事故死者数の絶対数が多いのは当たり前だけど、例えば未成年人口千人当たりの事故死者数で比較すると大都市を擁する東京都や大阪府は他の道府県とそれ程大きな差はない。だけど、大都市の交通事故死者の数を見ると未成年人口千人当たりで比較して他の道府県を多少下回っている。事故死者の比率全体では、全国の都道府県で、それ程大差はないのに、交通事故の死者の比率では、大都市は全国平均より多少低い。ということは逆に、交通事故をのぞく他の事故死では、大都市は多少高いということになるでしょ」
と言いながら土岐はいらないコピー用紙の裏に同じ高さの棒グラフを二本描き、金釘文字で亜衣子に説明した。