「今少子化でしょ。ただでさえ少ない未成年者の減少を何とかくい止めようということなのよ」
 午後から早速、作業が始まった。データは都道府県別の小奇麗な表になっていた。それぞれの都道府県について事故死のサンプルごとに発生した年月日、場所、原因、性別、年齢等の特性が記入されていた。備考欄には発生した年月日以降の経過が注書きされていた。行方不明、未解決、時効など様々だ。部屋の隅で耐用年数の尽きたエアコンが苦しそうに唸りを上げていた。午前中はその音と生ぬるい温風が多少気になった。午後からは慣れた。作業机の上には南に面した窓から昼過ぎの木漏れ日が鹿の子まだらに揺れていた。
「暦年ベースで原因別にソートし全国集計を作ってみてはどう?」という提案が亜衣子からあった。土岐の顔色をちらちらと窺う。
 その提案に従った。三時迄土岐一人で集計作業を行った。過去五十年間の未成年者の事故死の全国集計の結果、第一位は交通事故死だった。七〇年がピークで、その後減少したがここ二十年間は横ばいの状態が続いている。第二位以下は交通事故の半分以下で窒息、転倒・転落、溺死、自殺、第六位以下は火事、中毒になっている。
 三時過ぎたころ亜衣子が紙コップにコーヒーを淹れて持ってきた。
「どう?作業は進んでる?」
「交通事故を減らすには交通規制が一番だ。けどあんまり規制するとただでさえ不況なのに経済活動に影響を及ぼすだろうし」
「なに言ってるの?地域別はどうなってるの?見せてみて」
 土岐は都道府県別の棒グラフを即座に作図して見せた。
「東京が一番多いね」
「人口が多いんだから当たり前」
「未成年人口で割ってみたら?」
と亜衣子に言われる迄もなく、土岐は総務省のWEBサイトで都道府県別の人口統計を取り込んでいた。都道府県別の現在の未成年人口で未成年者の五十年間の累計事故死者数を割った値を全国平均で割った棒グラフはほぼ1のベンチマークラインに並んだ。都道府県別の格差は殆どないように見えた。
「東京、千葉、大阪の都市圏が僅かに1より上にあるけどこの程度なら誤差の範囲内か」
「でも死因別は違うんじゃない」