「医者は金持ちだから、すてるのさ。どうせ大学の金で買ったもんだろう。操子は小遣い稼ぎでそれを拾ってきちゃあ、ネットで売っていたみたいだ。あの子はなんでも拾ってきちゃ、売ってた」
「その、拾ってきたものはまだありますか?」
「あるよ、あの子の部屋の押し入れに詰まっている」
「ちょっと、見せてもらえますか?」
「捜査令状あるの?」
大田と三沢は顔を見合わせた。大田が口を開いた。
「任意でお願いします。一刻も早くホシをあげたいんで」
「見物料がほしいところだが、まあ、いいか」
男は6畳の殺風景な部屋の押し入れを開けた。加齢臭がした。大田は首をのばして、覗き込んだ。下の段には布団が押し込められていた。上の段には古書が山のように詰め込まれていた。古書の脇には文房具、鉄亜鈴、硯、掛軸、額縁、家電製品など、雑多なものが押し込められていた。どれも古物だ。
「買い手がつくと、どこにあるかわからなくって、一日中、ひっくりかえしてた」
大田はため息を吐いた。
「趣味だったんすかね」
「学費を稼いでいたようだ。バイトもしていたけど。大学は偏差値の低いくせに、学費だけは有名大学と同じで、バカ高かった」
「親孝行ってことすか」
「ああ、いい子だった」
大田はすこし目を潤ませた。ハンカチをとりだした。
「同じような年ごろの娘がいて」
「そう。変な便利屋には気をつけないと」
「土岐とかいう私立探偵?」
「弁護士に紹介されたんだ。着手金払えといわれて、金がないんで、と言ったら紹介してくれた。もう、くびにした。あいつが一番怪しい」
「第一発見者がホシっつうのは、よくある」
と大田が言うのを三沢がつづけた。
「そうだとしても、動機が。何か心当たりありませんか?」
「自宅に連れ込んで、いたずらしようとしたんだろう」
三沢は操子の容貌を思い出して反論しようとしたが、言葉をのみこんだ。
大田は三沢の腕を引いて、そのアパートをでた。
三沢は細い四つ角のごみの集積場所を確認した。低いブロック塀に張り出されたごみ収集の案内に紙ごみの回収日は月曜日と水曜日となっていた。
大田は根津署に立ち寄ることを提案した。近くだったので、三沢は応じた。
根津署は蒲田署の半分程度の規模だった。大田が受付の女事務官に手帳を見せた。
「この近所に医学部の先生で、最近定年退職した人いる?」
「その、拾ってきたものはまだありますか?」
「あるよ、あの子の部屋の押し入れに詰まっている」
「ちょっと、見せてもらえますか?」
「捜査令状あるの?」
大田と三沢は顔を見合わせた。大田が口を開いた。
「任意でお願いします。一刻も早くホシをあげたいんで」
「見物料がほしいところだが、まあ、いいか」
男は6畳の殺風景な部屋の押し入れを開けた。加齢臭がした。大田は首をのばして、覗き込んだ。下の段には布団が押し込められていた。上の段には古書が山のように詰め込まれていた。古書の脇には文房具、鉄亜鈴、硯、掛軸、額縁、家電製品など、雑多なものが押し込められていた。どれも古物だ。
「買い手がつくと、どこにあるかわからなくって、一日中、ひっくりかえしてた」
大田はため息を吐いた。
「趣味だったんすかね」
「学費を稼いでいたようだ。バイトもしていたけど。大学は偏差値の低いくせに、学費だけは有名大学と同じで、バカ高かった」
「親孝行ってことすか」
「ああ、いい子だった」
大田はすこし目を潤ませた。ハンカチをとりだした。
「同じような年ごろの娘がいて」
「そう。変な便利屋には気をつけないと」
「土岐とかいう私立探偵?」
「弁護士に紹介されたんだ。着手金払えといわれて、金がないんで、と言ったら紹介してくれた。もう、くびにした。あいつが一番怪しい」
「第一発見者がホシっつうのは、よくある」
と大田が言うのを三沢がつづけた。
「そうだとしても、動機が。何か心当たりありませんか?」
「自宅に連れ込んで、いたずらしようとしたんだろう」
三沢は操子の容貌を思い出して反論しようとしたが、言葉をのみこんだ。
大田は三沢の腕を引いて、そのアパートをでた。
三沢は細い四つ角のごみの集積場所を確認した。低いブロック塀に張り出されたごみ収集の案内に紙ごみの回収日は月曜日と水曜日となっていた。
大田は根津署に立ち寄ることを提案した。近くだったので、三沢は応じた。
根津署は蒲田署の半分程度の規模だった。大田が受付の女事務官に手帳を見せた。
「この近所に医学部の先生で、最近定年退職した人いる?」