アルチュール

「なにか事件に心当たりないかな?」
「わりといい子だった。勉強はできないみたいだったけど」
「ほかには?」
「それだけ」
「背の高い男の子で、親しいのはいなかった?この写真の中に見覚えは?」
と三沢はテーブルの上にB5画像を三枚広げた。女子学生は食い入るようにみた。
「しんない。背はともかく、男に興味なかったみたい」
「バイト先、知ってる?」
 糸井は不意打ちを食らったように大田を見て首をすくめた。
「知ってる子いるから、聞いとく」
 チャイムが鳴った。
「もう、授業だね」
と大田はすぐに席を立った。ひじで三沢の肩を小突いた。周囲の学生の視線が集中している。
「大学の線は、とりあえず、後回し」
と憮然としている。

 帰署してすぐ、三沢はパソコンを立ち上げて、大田を手招きした。
「どうやら、操子の趣味はC2Cのようです」
「なにを売買してるんだ?」
「いろいろです」
「たとえば?」
「たとえば、古書の出品ではですね」
と三沢はサイトを開く。
「専門書がおおいですね」
「たとえば?」
「医学書とかです」
「たとえば?」
「解剖学というのがありますね」
「なんだそれ。害者の学部は文系だろ?」
「そうです」
「関係ねえじゃねえか」
「出版年を見ると十年前です」
「つうことは、操子は小学生じゃねえか」
「自分のものじゃないでしょう。とにかく、古書売買のサイトだから」
「じゃあ、父親か?」
「父親は高卒の派遣社員で、今は自宅待機。職種はデータ処理ですかね。ご存知ですよね」
「関係ねーじゃねーか」
「午後、ノートPCの返却がてら、父親に聞いてみましょう」

 夕方、在宅を確認して二人は再び、操子の父親のアパートを訪ねた。キッチンの調理台にむき出しの白い骨壺が置いてあった。
 三沢が先に切り出した。
「古書のサイトで、お嬢さんが医学書を出品しているんですが、どうやって入手したんでしょうか」
「近くに医学部の医者が住んでいて、紙ごみを出す日に、捨ててあったのを拾ってきたらしい」
「でも、高価そうな本ですよ」
「おおかた、定年退職して、整理したんじゃないの」
と織田はめんどくさそうだ。三沢が首をかしげていると、織田は補足した。