翌朝、木曜日、大田は署内会議にかりだされた。三沢は操子の父親に電話し、今日中にノートPCを返却することを伝えた。それから取り出したデータをサーフィンした。文書はほとんどない。写真がほとんどだ。スマホにあった写真と同じものがいくつかあった。書籍、音楽CD、絵画、野良猫、白板、キャンパス風景、時刻表など、雑多で脈絡のない写真が、日付ごとにファイルに格納されていた。フリーメールは大学とアンケートサイトからの連絡がほとんどだった。フリマからの売買連絡のフリーメールがいくつかあった。消去済みのフリーメールの中身は、販促の宣伝だけだった。スマホのSNSと同じような友人同士のフリーメールは皆無だった。お気に入りのサイトにはアンケート、マップ、飲食店ナビ、フリマ、ECポータル、大学図書館、古書店、古物商、郵便などが登録されていた。三沢はひとつひとつアクセスして確認した。10近くあるアンケートサイトには膨大な量の回答済みアンケートの記録があった。それぞれのマイページの登録名は(みさこ)(美砂子)(美紗子)(美沙子)となっていた。フリマの出品評価を見ると星2つ、購入者としての評価は星1つになっていた。古書の出品評価を見ると、「よい」という評価が30%になっていた。出品サイトの点数は、合計すると五千点近くあった。すべてを確認しなかったが、重複している出品があるようだった。

 昼前に大田がデカ部屋に戻ってきた。三沢はこれから操子の大学へ友人(イトウ)に会いに行きたいと申し出た。大田は一瞬ムッとした顔を見せたが、付いてきた。
 二人が大学の学食「メジコ」についたとき、1時近くになっていた。三沢は(ミサコ)になり替わって、LINEに書き込んだ。
(ミサコ)「警察だけど、イトウさんいまどこ」
 すぐに、窓際で、手が上がった。幼稚園児の割烹着のようなブラウスを着ている。大田が近づくと、
「ういてる。おそい。でも、本物の刑事に会うの初めて。普通じゃん」
とうれしそうだ。
「イトウさん?」
と三沢が軽い声をかける。
「ハンドルネームはね。ほんとは、糸井っていうの」
「操子さんのこと、教えてくれる」
「あんまし知らない。クラスが同じだから、二人LINEを作っただけ」
「担任は平林先生?」
「そう。あのキモくてムズイの。『糸井さんかわいいね』って顔を近づけてくるの。キモイったらありゃしない」