「ところで、事件当日のお嬢さんの行動を知りたいんですが」
「朝出て行ったきりで」
「いつも、そんな感じで?」
 男にやつれた様子はない。
「夜中に帰って来て、遅くまでパソコンにかじりついて」
「事件後、なにかありました?」
「夜中に、尻の青い新聞記者が来ただけで。ほかには、なにも」
 男の顔に表情がない。三沢が操子のスマホを取り出した。
「お預かりした遺品で。他の遺品は霊安室の枕元に置いときました。データを取らしてもらいました。情報は捜査以外には使いませんが、後先になりましたが初動が重要なので。一応承諾書にサインを」
「情報をタダでとるか。まあ、しょうがないか」
と男は乱雑にサインした。
「あと、ここにノートパソコンがありますが、これもお嬢さんは使っていましたか?」
「ときどき」
「これもちょっと拝見したいんで、借用書を書かせてください」
「レンタル料を欲しいところだが、しょうがないか。仕事で使っているので、早く返してくれ」
 ノートPCには中古量販店のシールが貼られていた。三沢はカバンにそれをしまった。大田は、名刺を差し出し、
「気づいたことがあったらここに連絡を」
と言い残して、そのアパートを出ようとした。
「参考までに、ご主人は月曜日の夜8時頃どちらに?」
「アリバイですか?そこの陣七という居酒屋です」
 署に帰る途中、不忍通りの「陣七」という居酒屋に寄って織田のアリバイを確認した。

 上野から京浜東北線に乗った。車中で三沢は操子の父親に見張りをつけることを提案したが、大田は退けた。人手がない。
 帰署してから、三沢はスマホから取り出したデータをもとに、操子の唯一のLINEに書き込んだ。
(ミサコ)「こちら警察。操子の話を聞きたいんだけれど、明日学食で会えない?」
 すぐに既読があった。
(イトウ)「おばけ?いいよ。正午にメジコで」
 大田は日誌を書き、書類を整理して、帰宅した。三沢はノートパソコンのデータをすべてサーバーにとり出してから、帰宅した。