高橋が玄関外まで、見送りに出た。三沢は深々と頭を下げ、高橋が玄関ドアの中に消えかけた瞬間、スマホのシャッターを押した。
 
 帰署の途中で大田は市役所の出張所に寄った。高橋博の女房の死亡年月日の確認が目的だった。手帳を見せて、窓口で聞いた。日付は操子が殺害された日の1か月ほどまえだった。
 三沢が大田に問いただした。
「女房が死んだ日とヤマとどういう関係があるんですか?」
「義理の妹がなんで今日いるのか、ちょっとひっかかった」
「姉の遺品の整理でもしてたんじゃないですか?高橋がそう言ってましたよね」
「高橋があの絵を出品した日がわかるか?」
 駅に向かいながら三沢がスマホを開いた。通勤客が迷惑そうな目線を追い越しざまに三沢に投げかける。大田は三沢に歩調を合わせる。改札を抜けて、混雑するプラットフォームに立った時、三沢が強い声でささやいた。
「2か月前ですね」
「ということは、女房はまだなくなってなかった」
「余命いくばかり、ということで、遺品になりそうなものを整理し始めたということですかね」
「高橋の身長はどのくらいだった?」
「170はなかったですね。165あるかないか」
 突然、大田が今は言ってきたばかりの改札から駅の外に出た。三沢はあわてて後を追った。
「何か忘れ物ですか?」
「朝飯だ」
と言いながら、大田は急ぎ足でうどんのチェーン店に入った。大きなガラス窓から、高橋の家の玄関が見える。
「ゆっくりたべろ」
と大田がかけうどんの麺を一本ずつすする。目線は高橋の家の玄関に張り付いている。
「なにか動きがありますかね?」
「ないかもしれん。警察が来ることは想定していなかったはずだ」
 三沢も高橋の家の玄関を注視した。
「裏口から出て行くことはないでしょうかね?」
「あるかもしれん。二人だと目立つから、あの家の裏手がどうなっているか、見てきてくれるか?」
 三沢はうどんを食べかけのまま、高橋の家の裏手に回った。うどん屋の大きなガラス窓越しに、大田は三沢の動きを追っていた。すべての人の流れが駅に向かっている。ひとりではあるが、逆方向の三沢の動きは目立っていた。三沢は高橋の家の隣から、裏手に回った。5分もしないうちに、三沢は戻ってきた。
「高橋の家の裏に駐車場がありました。車はありません。遠目ではありますが、高橋の家に人の気配はなかったようです」