先刻の女がお茶をもってリビングに入ってきた。大田が訊いた。
「あの絵は貴重なものなんで?」
「安物だと思うんですけど、姉が唯一母からプレゼントされたもので、飾ることはしなかったんですけど、大切にしていました。母は私のことは『かわいい、かわいい』ってかわいがってくれたんですけど、長女の姉については『かわいいと思ったことは一度もない』って姉の前で行ったことがあったんです」
「それを高橋さんが、あなたの許可も取らずにネットで売ってしまった」
「いえ、姉のものは博さんのものだから、わたしはどうこう言う立場にはないんですけど、事情を話したら、博さんが買い戻すと言ってくれて」
 三沢が高橋に目線を戻した。
「でも、よくあの絵を探しだしましたね」
「本当に欲しい絵であれば、返品するなんて言わないはずです。転売しているような気がしたんで、画像検索しました」
「そうしたらヒットしたんですね」
「送料900円かかったものを、送料込みで3000円で買い戻したので、3900円の出費です。最初から義妹にあげていれば払わないですんだカネです」
 大田がソファに座りなおした。
「ご存知ないかもしれませんが、あの絵を売買した織田操子という女子学生は先週の月曜日に殺害されています」
 高橋は大きく目を見開いた。
「えっ、(配送する)というメッセージがありましたけど」
「たぶん、それは出品者の父親だと思います」
 高橋はうつむいて床に目を落としている。
「死亡したら、出品できないんじゃないですかね」
 三沢が手帳を内ポケットにしまった。
「サイトの規約ではそうなっていると思いますが、サイトの主催社はチェックしていないでしょう。アンケートサイトの場合は、たまに電話して本人確認をしているようですが、アンケートサイトの場合は、アンケート数が多い方がクライアントからより多くのアンケート料をとれるんで、あまり積極的に本人確認はやっていないようです」
 大田が立ちあがった。
「どうも早朝から、失礼しました。参考までに、先週の月曜日の夜8時頃、どちらにいたか、覚えていますか」
 高橋は即答した。
「この家に、ひとりでいました」
 三沢が玄関に向かう大田の後を追った。
「どうも、お邪魔しました」