「草原に獲物が潜んでいたら一発ぶっぱなす」
「逃げるでしょうね」
「所在が分かる。証拠がない時は、証拠隠滅をさせる。それから証拠隠滅の証拠をつかむ」
二人は金曜日の朝8時に駅で待ち合わせた。配送先住所は東武東上線霞ヶ関駅から徒歩10分ぐらいの私立大学の裏手にあった。通勤で駅に向かう人々をかき分けて歩いた。
三沢は「高橋」という表札の前でインターホンを押した。中年後半の女がドアから顔を出した。
「高橋博さんのお宅ですか?」
と三沢が頭を下げた。女は首をすくめるようにうなづいた。
「ちょっと、お話を伺いたいことがありまして」
と三沢が手帳を見せた。女は三沢の後ろの大田に目を送った。大田は、
「聞きたいことがありまして、蒲田警察署の者です」
女は二人を玄関先に招き入れた。スリッパを揃えたが、
「いえ、すぐ終わります」
と大田が固辞した。二階から階段を降りてくる足音がした。
「なんでしょうか?」
とゴマ塩頭の男が降りてきた。
「中へどうぞ」
と言われて、三沢が先にスリッパに足を入れた。二人は玄関の隣のリビングに通された。
「すぐ終わりますんで」
と大田が先にソファに腰かけた。
「ネットのフリマで美紗子というハンドルネームの人から絵画を購入しましたよね」
高橋は目を点にしてうなずく。
「ええ。まだ届いていませんが」
「この絵画はもともと高橋さんが、『砂』の美砂子という人に売却したもんですよね」
「売却したというか、なんというか」
三沢が横から口を出した。
「詐取されたんじゃないですか?」
「詐取されたかどうか、分かりませんが、クレーマーのような人でした」
「それをどうして買い戻したんですか?」
「あれは、女房の形見だったんです」
「奥さんの形見をフリマで売った」
と大田が確認した。
「すると、先ほどの女性は?」
「女房の妹です」
三沢が話を元に戻した。
「奥さんの形見を誤って売ってしまったということなんですか?」
「あの絵は女房が結婚した時、実家からもってきたもんで、ずっと押入れの奥にあったんです。女房のものは置いておくと、思い出して辛いんで、捨てるわけにもいなないので、売ったわけです」
「それをまた、どうして買い戻そうとしたんですか?」
「女房の妹が形見に欲しいと言い出して。いまちょうど遺品整理で来ています」
「逃げるでしょうね」
「所在が分かる。証拠がない時は、証拠隠滅をさせる。それから証拠隠滅の証拠をつかむ」
二人は金曜日の朝8時に駅で待ち合わせた。配送先住所は東武東上線霞ヶ関駅から徒歩10分ぐらいの私立大学の裏手にあった。通勤で駅に向かう人々をかき分けて歩いた。
三沢は「高橋」という表札の前でインターホンを押した。中年後半の女がドアから顔を出した。
「高橋博さんのお宅ですか?」
と三沢が頭を下げた。女は首をすくめるようにうなづいた。
「ちょっと、お話を伺いたいことがありまして」
と三沢が手帳を見せた。女は三沢の後ろの大田に目を送った。大田は、
「聞きたいことがありまして、蒲田警察署の者です」
女は二人を玄関先に招き入れた。スリッパを揃えたが、
「いえ、すぐ終わります」
と大田が固辞した。二階から階段を降りてくる足音がした。
「なんでしょうか?」
とゴマ塩頭の男が降りてきた。
「中へどうぞ」
と言われて、三沢が先にスリッパに足を入れた。二人は玄関の隣のリビングに通された。
「すぐ終わりますんで」
と大田が先にソファに腰かけた。
「ネットのフリマで美紗子というハンドルネームの人から絵画を購入しましたよね」
高橋は目を点にしてうなずく。
「ええ。まだ届いていませんが」
「この絵画はもともと高橋さんが、『砂』の美砂子という人に売却したもんですよね」
「売却したというか、なんというか」
三沢が横から口を出した。
「詐取されたんじゃないですか?」
「詐取されたかどうか、分かりませんが、クレーマーのような人でした」
「それをどうして買い戻したんですか?」
「あれは、女房の形見だったんです」
「奥さんの形見をフリマで売った」
と大田が確認した。
「すると、先ほどの女性は?」
「女房の妹です」
三沢が話を元に戻した。
「奥さんの形見を誤って売ってしまったということなんですか?」
「あの絵は女房が結婚した時、実家からもってきたもんで、ずっと押入れの奥にあったんです。女房のものは置いておくと、思い出して辛いんで、捨てるわけにもいなないので、売ったわけです」
「それをまた、どうして買い戻そうとしたんですか?」
「女房の妹が形見に欲しいと言い出して。いまちょうど遺品整理で来ています」