三沢はSOLD―OUTという襷のかかった画像を拡大している。
「どこで見たんだ」
と大田が椅子のまま三沢ににじり寄った。三沢はマウスをクリックし続けた。
「これだ」
と三沢が拡大した画像は背景は異なるが、同一の絵画だった。出品者と購入者のやりとりを見た。
(美砂子)「商品説明になかった汚れが、カンバスの裏にありました。返品しますので、返金をお願いします。証拠の画像も添付するのでよく見てください」
(リタイヤ)「絵はカンバスの裏でなく、表を鑑賞するものです」
(美砂子)「額縁にも3か所、傷があります。これも商品説明にはありません。返品しますので、全額返金をお願いします」
(リタイヤ)「絵画は額縁を鑑賞するものではありません」
(美砂子)「大人の対応をお願いします。はやくおカネを返してください」
(リタイヤ)「キャンセルします。おカネはサイトが預かっています。こちらにはありません」
(美砂子)「まだ、おカネが返ってこないんですが。はやくしろ」
(リタイヤ)「返品は結構です。今後わたしのショップからは購入しないでください」
 三沢の手がフリーズしている。
「おなじ手口だ。美砂子はフリマやくざか」
「この絵を購入したのは誰だ」
 三沢の返事がない。大田は三沢が開いた先刻の画面を腰を浮かせてのぞきこんだ。購入者は(リタイヤ)となっている。大田の大きな顔が三沢の横にある。
「商品と送料を失った人間が、倍の金額で買い戻そうとしているのか?」
「意味不明です。買い戻そうとしているにしても、同じハンドルネームを使っている。操子がどう出るか、探りを入れているのか。自分も同じ言いがかりをつけて、商品を取り戻そうというのか」
 大田が画面の商品説明を指さした。
「しかし、美沙子は額縁の傷やカンバスの汚れはちゃんと書いてあるぞ」
「もともとの出品者だから、これ以外の商品の瑕疵を知っているのかも知れないですね」
「偽物という指摘は有力だろうが、3千円じゃ、そもそも名のある画家じゃないよな」
「一応、あたってみますか?」
「まあな、また空振りかも知れんが」
 三沢は(美紗子)のショップで、絵画を購入した(リタイア)の配送先住所と氏名を確認した。大田の顔がほころんでいる。
「よし、あした朝駆けだ。一応、電話番号を調べて、在宅を確認してくれ」
「証拠隠滅の危険はないですか?」