「で、彼女の父親はあなたに何を依頼したんですか?」
「別居している妻の浮気調査です。娘を置いて突然家出して、財産分与を求めてきたので、浮気に違いないというのがクライアントの推理です」
 大田は大きく息を吐いた。くさい。
「それと娘の殺害と何か関係がある?」
「クライアントのプライベートについては守秘義務があるので」
 突然、三沢が机を叩いた。茶碗が揺れた。
「なにいってんだ、おまえ、探偵の登録をしてないだろう。偉そうに守秘義務なんぞと、ほざくなよ」
 大田が三沢の手を机の上から押しのけた。
「なにか、こころあたりは?」
「なにも。彼女はとても心優しい、いい子です。父親は変わり者で、ちょっととっつきにくいのですが」
 大田は大きくうなずいた。
「父親はなにやってんの?」
「高卒の派遣社員です、データ処理関係の。いまは、自宅待機になっています」
「母親はどんな女?」
「まだ、依頼を受けたばかりで、数回尾行した程度です」
 三沢は肩をすくめた。
「なんであなたの自宅で会おうとしたんですか?」
「情報入手です。母親のことを知りたかった。それに、彼女、父親と一緒にいるのが、苦痛だというので。蒲田は彼女の大学に近いんです」
「彼女は8時まで、どこにいたんですか?」
「大学が終わってから、バイトだと」
「どこのバイト?」
「さあ。彼女はスポットでやっていたみたいで」
「よるの8時から女子大生と自宅で歓談ですか。それだけですか?」
 土岐が三沢の顔をにらみつけた。大田は土岐の目に話しかけた。
「ボーイフレンドいなかったのかな?」
「男女共学の大学だから、程度はともかく、男友達はいたでしょう」
「ひとりも知らない?」
「ええ」
 大田は聴取を切り上げた。
 土岐を署の玄関へ見送ったあと、二人は駅前の閉店間際の居酒屋の奥で、酒を交わした。
 大田が言う。
「土岐は175センチぐらいだな」
 三沢が生ビールを飲みながら答える。
「僕と同じぐらいだから、そんなもんでしょう。それが?」
「女の子は頭頂部を殴打されてる。たぶん真上からの打撃だ。あの子は165センチ近くあったから、175センチだと、頭頂部のやや下になるはずだ。犯人の脇の下の高さは160センチ近くあるはずだ」