「偽証ということはないでしょうね」
「動機は?」
「さあ?」
「偽証も一応、証言だ。偽証という証言だ。あとで、ちゃんと整理しておけよ。最後で、有力な証言になることがある。証言が対立すれば、どっちかが偽証だから事件解決のいとぐちになる」
 最後の独立系の店は、丼物の専門店で、牛丼以外の親子丼やかつ丼などのメニューもあった。店舗の内装に派手さがない。三沢が店の奥に入って、店長を呼び出した。昼食時間のかき入れ時がすぎ、厨房でまかないを食べていた。
「なんですか?」
と入道のような店主が出てきた。三沢が学生証のコピーを見せる。
「この子が、先週の月曜日の夕方、アルバイトで来たと思うんですけど」
 店長のこめかみがひきつった。
「やっぱりそうだったんですか」
「なにが、やっぱり?」
と大田が即座にきいた。
「ローカルニュースでやっていたんで。操子という名前は覚えていたんで。織田というのはピンとこなかったけど」
「バイトは何時から何時まで?」
「夕方のいそがしいときだけ。たしか、5時から7時まで」
「おたく、防犯カメラある?」
 店主が苦笑いした。
「そんなもんつけるほど、売り上げがないんで。町会長が『区から補助金が出るんで、つけないか』と言ってきたけど。こっちは、補助金だけが欲しい」
 店主が言い終わる前に、礼だけ言って大田は店の外に出た。風が冷たくなっている。その足で、大井町駅の西口の監視カメラの画像データを入手した。

 帰署すると、出掛けにかけていた画像照合が終わっていた。スリープモードのパソコンを立ち上げ、大井町駅西口改札の画像で操子を探した。4時半過ぎに西口改札を出る画像と7時半過ぎに西口改札に入る画像を確認できた。同様の画像照合を根津駅の3分間をオリジナルとして、対象画像も操子が通過した3分間に設定し、類似度90%で三沢はエンターキーをたたいた。
「これ、時間結構かかるんで、このまま帰宅していいですか?」
 大田はつりそうなふくらはぎをもみながら、
「あしたも、よろしく」
とこたえて捜査日誌を書き終えた。
 
 翌木曜日、三沢はスリープモードのパソコンを復帰させ、画像比較画面を最小化した。
大田が出署するまで、操子のフリーメールをチェックした。フリマサイトの主催者から、
「配送が遅れています」