「だから、多売できれば、送料をかき集めて、ショバ代の定額以上になれば、それが出品者の利益になる。もともと古書はタダ同然の二束三文でかき集めてくるから、定額さえなければ、いい儲けになる。だけど、儲けているという業者は聞いたことがない。大儲けしているのは、胴元の外資系のネット古書販売仲介業者だけ。日本の大手取次業者は、新刊の書籍販売の取り次に胡坐をかいていて、このビジネスモデルに気付かなかった」
「そういえば、アメリカには新刊の取次業者っていないんだよね」
「アメリカの書店は、基本、出版社から直接買い取って店舗に並べる。書店がリスクを取る。そこに目をつけたのがアメリカのネット業者だ。品ぞろえの中に新刊書もとりそろえた」
 直帰の帰宅途中で、大田が同じ自問を繰り返した。
「操子はどこで医学書を入手した?」

 翌日、金曜日、三沢はもう一度、(みさこ)のフリマサイトを詳細に見た。購入履歴を見ると、くだんの医学書があった。そのサイトで、その医学書を検索すると、SOLD―OUTになっていた。出品者は(ドクター)というハンドルネームで、取引のコメントが残っていた。
(みさこ)「商品説明にない線引きがあったんで、ゆうパックで返品しますので、返金してください」
(ドクター)「出品時に点検しましたが、線引きはありませんでした」
(みさこ)「じゃ、返品しますから、再点検してください。いずれにしても、キャンセルしたいので、返金してください」
(ドクター)「返品しなくてもいいので、こちらの送料だけでも負担してもらえませんか?」
(みさこ)「いいえ、全額返金してください」
(ドクター)「わかりました。全額返金します。返品は結構です」
 三沢は(ドクター)の出品を閲覧した。発送方法がクリックポストであることを確認し、送料込み300円のマンガがあったので購入した。配送先は蒲田署とした。遅れてきた大田にそのことを説明した。
 午後、たまたまデカ部屋にいた二人は緊急に発生した強盗事件の初動捜査に駆り出された。

 三沢が購入したマンガは翌週の月曜日、蒲田署に配送されてきた。三沢は、昼食後にそれを受け取った。
「このクリックポストの住所で操子に医学書を販売したいきさつを聞きましょう」