お城は、煌びやかだった。
 巫女としてお勤めを果たしていた村の、夜に行われるお祭りが、私の知る限りいちばんの輝きだったのだけれど。
 村のお祭りよりも、ずっと、ずっと。

 私の背丈よりも背丈が高いけれど、見た目にはお若い陽さまは、少年のようにきらきらと私を導く。手を、しっかりといっしょに握って。

 玉座に導かれた。
 畳が一段高い玉座には、壮年の男性が座っていて――その膝には、幼い女の子が座っていた。七つもいかないほどの……いまの私とおそらく同じくらいの。

 畳張りの部屋。豪華絢爛な調度品が上品に置かれている。甘い香も焚かれていて、本棚や筆、びい玉やめんこといった遊び道具もずらりと揃って、品のよさと過ごしやすさの両立した不思議なお部屋だった。

 玉座に座っていらっしゃる龍神様は、陽さまに似ていた――端正な顔立ちといい、深い微笑みといい。

「戻りました、お父様」

 陽さまはきれいにひざまずく。
 私も慌てて倣おうとするけれど……。

「ああ、巫女姫、そなたは礼などしなくて良い」

 陽さまのお父様だという龍神様のあたたかい声に、やんわりと制された。

「陽もご苦労だったね。堅苦しいのはいらない、顔を上げて」
「はい、お父様」

 陽さまは顔を上げる。

「龍神の郷によく来てくれたね、当代の巫女姫であり花嫁となった、ひなよ。儂は陽の父、(エン)という。気軽に円と呼んでくれればいい。よろしく頼むよ」

 またしても頭を下げそうになる私の胸もとに腕を入れて、陽さまは立ったまま私を抱えた。視界が、一気に高くなる。

「ひな、本当に礼などいらないんだよ。花嫁は龍神にとって最も尊い存在なんだ。いつでも気楽にしていてもらえばいい――幼子となって自由奔放に、どんな場においても、したいことだけをしていればいいんだ。……龍神の郷では花嫁たちにぜひ、そのように過ごしてもらいたいんだよ」
「その通り。ふむ……当代の花嫁、ひなを見ていると、儂の愛しい愛しい小さな花嫁の幼いころを思い出すのう……なあ? すず」

 円さまは、膝にちょこんと乗っている幼い女の子に話しかけた。
 女の子は、ほんわりと答える。

「ほんとに。私も郷に来たばっかりのころは、可愛いひなちゃんのように戸惑っていたっけ。……ひなちゃん。よく来てくれたわね。私は、あなたの先代の巫女のすず」
「――先代の」

 私が一方的に、勝手に共感を覚えていた、先代の……巫女。

「村は、相変わらず? 相変わらずというのはつまり、巫女を村の生贄にして、村の管理を円滑にするという意味だけれど」
「……はい」
「そう……ひなちゃん、あなたはいったい、あの村でどんな生涯を過ごしたのかしら。私はね……」

 幼い容姿でありながらもなお大人っぽさと思慮深さを感じさせるすずさんが、ぽつりぽつりと話してくれた、彼女の生涯は。
 ……私の生涯とおなじくらい、悲惨なものだった。

 私は、すずさんよりももっと言葉少なに、ぽつりと、……自身の生涯を語った。
 途中で泣いてしまったりもしたけれど……。
 私の下手な説明でも――ここにいるみなさんは、理解してくれたみたいだった。

 ……話しているあいだ。
 陽さまは、私の身体をずっと――ぎゅっと、抱きしめてくれていた。
 私の言葉に。ときには、彼まで肩を震わせながら、聞いてくれた。

 私の話を聞き終わると、すずさんはこちらに歩み寄ってくる。それに伴い、円さまも玉座から降りてきて、すずさんの隣に座った。

「ごめんなさいね。きっとつらい思いをしていると、わかってはいたのだけれど……」
「それについては儂から謝罪とともに説明しよう……儂ら龍神は、かの村と契約を交わしている。かの村の人間たちは古来より龍神の加護のもとに暮らしていた。しかし時がくだるにつれて、かの村の人間どもは傲慢になり、龍神を軽んじ、自身の利益のためになら近隣の村を襲うなどの暴挙に出るようになった。これでは龍神の加護を受ける資格はない。そこで儂らの先祖の龍神はかの村を滅ぼそうとしたのだが――かの村の人間どもは頭を下げ、懇願してきたのだ。今後は心を入れ替え慎ましく暮らすから、どうか見逃してほしいと」

 円さまの表情が、暗くなる。

「……先祖は了承した。そして人間どもと契約を結び直したのだ。人間側は心を入れ替え清く正しく慎ましく生きる、その証として村から龍神に生涯奉仕する巫女を選出し、巫女の主導のもと村全体で龍神を祀り続ける。龍神側は巫女を伴侶とすることを条件に、人間側を加護し続けると」

 円さまは、そこでいったん言葉を句切った。深呼吸をするかのように。

「先祖が悪かったわけではない――かの村の人間どもの心が、結局もたなかったというだけのこと。その代の人間どもはまだましだったという……次の代、その次の代もまだ……しかし契約を結び直した代の曾孫の代となるともう、彼らの心はすっかり元通りに悪に染まっていた。龍神をまともに信じなくなり、近隣の村を暴力で支配し屈服させるという暴虐に出るようになった」
「その曾孫の代が、いまの村長の曾祖母世代なのよ……」

 すずさんが暗い顔で言った。

「そうだったんですか……」

 初めて、知る事実だった。