後ろに、優しい顔をした龍神様が映り込む。
そばに来てくださったらしい。
私は思わず龍神様を振り返った。
「龍神様、これは……」
「ひなが最も幸福でいたかった時代のすがただ。小さなひなも、とってもすてきだよ」
たしかに、おっしゃっていた。
でも本当に、幼子のすがたになるなんて……。
龍神様のお力というのは、やはり人間からすると計り知れない。
「それと、いつまでも龍神様、とよそよそしいのは戴けないな。龍神というのもたくさんいるんだよ。人間を人間、と呼ぶようなものだ」
「す、すみません……」
「怒っているわけじゃないんだよ、さみしいんだ」
あっけらかんと、龍神様……ううん、ええと、龍神の陽さまは笑う。
「ひなと俺はもう夫婦なのだから、龍神様ではなく、陽と呼んでほしい」
「え、えっと……」
畏れ多い。
それにだれかの名前を呼んだことなど、ほとんどないから……。
恥ずかしくて。
もじもじしてしまう。
「……よ、陽さま」
「さまなんて、つけなくてもいいんだけどな。陽、って気軽に呼び捨ててもらっていいのに」
「そ、そ、そんな、お、畏れ多くて」
さすがに、そんなの……畏れ多すぎて、卒倒してしまいそうだ。
「でも、ひなが呼びたいように呼んでもらえばいい。俺の愛しい巫女姫のひな――やっと、俺の名前を呼んでくれたね」
陽さまは後ろから私を愛おしそうに抱きしめると、髪にそっと口づけてきた。
私など、価値もないのに。だから、不安で。
どうして、私などをここまで愛しんでくださるのですか……。
そう尋ねたい気持ちと同時に、これまで経験したことのない熱い気持ちと感触で、全身と五感がいっぱいになって……不安までも融かしてしまう。
私は幸せになることなどなかったはずなのに……。
まるで夢の世界のような桜の吹雪く龍神様の郷で、自分よりもずっと大きな身体の若い龍神様の陽さまに抱かれながら、夢見心地で、……これが本当に夢だったなんて結末じゃなければいいのに、と切に願って、とろんとした気持ちで口を開く。
「夢みたいです……」
「夢なんかじゃないよ」
「夢だったら、どうしましょう」
「ひなが」
龍神様は、私を抱く腕に力を込めた。……とても夢とは思えない、現実味のある、圧倒的な感覚だった。
「信じてくれるまで、夢じゃないと言い続けるよ」
夢じゃない。きっと、夢じゃない。
信じたくて――でも生涯ずっと虐げられてきた私にこんな温かさが舞い降りてきたなんてやっぱり俄には信じられなくて、……私は、信じたい気持ちと温もりの狭間で、目を閉じたのだった。
桜の香りがふわりと広がる――。
そばに来てくださったらしい。
私は思わず龍神様を振り返った。
「龍神様、これは……」
「ひなが最も幸福でいたかった時代のすがただ。小さなひなも、とってもすてきだよ」
たしかに、おっしゃっていた。
でも本当に、幼子のすがたになるなんて……。
龍神様のお力というのは、やはり人間からすると計り知れない。
「それと、いつまでも龍神様、とよそよそしいのは戴けないな。龍神というのもたくさんいるんだよ。人間を人間、と呼ぶようなものだ」
「す、すみません……」
「怒っているわけじゃないんだよ、さみしいんだ」
あっけらかんと、龍神様……ううん、ええと、龍神の陽さまは笑う。
「ひなと俺はもう夫婦なのだから、龍神様ではなく、陽と呼んでほしい」
「え、えっと……」
畏れ多い。
それにだれかの名前を呼んだことなど、ほとんどないから……。
恥ずかしくて。
もじもじしてしまう。
「……よ、陽さま」
「さまなんて、つけなくてもいいんだけどな。陽、って気軽に呼び捨ててもらっていいのに」
「そ、そ、そんな、お、畏れ多くて」
さすがに、そんなの……畏れ多すぎて、卒倒してしまいそうだ。
「でも、ひなが呼びたいように呼んでもらえばいい。俺の愛しい巫女姫のひな――やっと、俺の名前を呼んでくれたね」
陽さまは後ろから私を愛おしそうに抱きしめると、髪にそっと口づけてきた。
私など、価値もないのに。だから、不安で。
どうして、私などをここまで愛しんでくださるのですか……。
そう尋ねたい気持ちと同時に、これまで経験したことのない熱い気持ちと感触で、全身と五感がいっぱいになって……不安までも融かしてしまう。
私は幸せになることなどなかったはずなのに……。
まるで夢の世界のような桜の吹雪く龍神様の郷で、自分よりもずっと大きな身体の若い龍神様の陽さまに抱かれながら、夢見心地で、……これが本当に夢だったなんて結末じゃなければいいのに、と切に願って、とろんとした気持ちで口を開く。
「夢みたいです……」
「夢なんかじゃないよ」
「夢だったら、どうしましょう」
「ひなが」
龍神様は、私を抱く腕に力を込めた。……とても夢とは思えない、現実味のある、圧倒的な感覚だった。
「信じてくれるまで、夢じゃないと言い続けるよ」
夢じゃない。きっと、夢じゃない。
信じたくて――でも生涯ずっと虐げられてきた私にこんな温かさが舞い降りてきたなんてやっぱり俄には信じられなくて、……私は、信じたい気持ちと温もりの狭間で、目を閉じたのだった。
桜の香りがふわりと広がる――。