「わあ、ハサミもベリーちゃんだ! あっ、この下敷きも!」
 帰宅したひまりは、あらためてランドセルの中身をリビングの床に広げて、ひとつひとつ確認を始めた。そのたび、すごいっ、と心底感動した声を上げる。
「ぜーんぶかわいい!」
「……それ、花耶お姉ちゃんが選んでくれたんだよ」
 僕もいっしょに眺めているうちに、あの日の春野の笑顔がよみがえってきた。
 基本的にシンプルなものばかり選ぼうとする僕に、『ぜったいこっちのほうがかわいい! ひまりちゃんはこっちのほうが喜ぶって!』と力説していた彼女の声が。
「えっ、そうなの? かやお姉ちゃん?」
「うん」
「ひまり、またかやお姉ちゃんに会いたいなあ。ね、お兄ちゃん、今度連れてきて?」
「……会えないんだよ」
「なんで?」
 きょとんとして首を傾げるひまりの顔を眺めながら、僕は少しだけ迷ったあとで、
「カナダに、引っ越しちゃったから」
「カナダって? 外国?」
「そう、外国。すっごい遠く」
 そっかあ、とひまりは少し唇をとがらせて、残念そうに呟く。そうしてまた文房具のほうへ手を伸ばした彼女の腕が、僕の前を横切った。
 そこにうっすらと残る傷跡が見えた瞬間、ふっと僕は真顔に戻る。

「……ごめんね」
「ん、なあに?」
 思わずこぼれた呟きに、ひまりが不思議そうな顔でこちらを見る。
 なんでもない、と僕は短く首を横に振って、
「もし傷が残ったときは、ぜったい僕がなんとかするから」
「へ? なんの話?」
「なんでもないよ」
 僕はごまかすように笑うと、首を傾げるひまりの頭に手を伸ばし、何度か撫でた。