昨日とは反対方向の電車に乗り、僕たちはふたつ先の市にある動物園を目指した。
 春野は背負ったリュックサックとはべつに、少し大きなトートバッグも持っていて、電車の中ではそれを大事そうに膝の上に抱えていた。

「それ、持つよ」
 駅を出て、スマホの地図を見ながら歩きだしたところで、僕は重たそうだったそのトートバッグを春野の手から取った。
 おそらくお弁当が入っているのだろうとは思っていたが、持ってみると、予想以上にずっしりとした重量感が手のひらに食い込んだ。
「わ、あ、ありがとう。大丈夫? 重たくない?」
「大丈夫だけど、これどんだけたくさん作ったの、お弁当」
「ちょっと張り切っちゃって……」
 驚く僕に、春野は恥ずかしそうに指先で頬を掻きながら笑った。

 三十分ほど歩いてゆるやかな坂道を上った先、緑豊かな公園の一角に、目的の動物園はあった。
 ゲートをくぐるとまず、小さな子ども用の乗り物や観覧車が置かれた、こぢんまりとした遊園地のようなコーナーがあって、
「ね、あとであっちも行きたいな。いい?」
 それを見るなり、春野が指さして意気込んだ調子で訊ねてきた。
「いいけど。なに、あのパンダとかに乗りたいの?」
「ううん、観覧車に乗りたくて」
 からかうように訊ねた僕に、春野がはっきりとした声で返す。
 その答えに思わず、え、と声を漏らしてしまった僕には気づかなかったようで、
「でもせっかく動物園に来たんだから、まずは動物見なきゃね! さ、行こ!」
 春野は笑顔で、正面に見える動物たちの檻のほうを指さした。