「やりたいようにやればいいんじゃないのか?ただ、その答えによっては俺が悲しむけど」
彼の言葉に顔を上げた清宮の目元で滴が光っている。
「どうして?私たち友達でも家族でも、特別親しい仲でもないのに」
その問いに海堂は静かに答えた。
「こうやって知り合った人が死を望んでいて、それを止められる……止められなくても俺が何かのきっかけになれるかもしれない。それなのに君を失ってしまったら、俺は一生後悔する。これも人生の付録って言うのか?」
海堂の最後の一言に清宮は痛いところをつかれたと視線を外す。
「あ……。そうだね、自分の感情はどうでもよくても、お兄さんの付録にまでは責任取れないや」
清宮は困ったように笑った。
「俺は君に、生き続けて欲しいと思ってる」
その言葉はあまりにも真っ直ぐで、清宮がいる場所よりも遠くへ届いてしまいそうなほどだった。
「私のこと引き止めてくれるお兄さんが養ってくれるなら考える」
清宮は子どものような冗談を言う。
「それは……」
海堂が次の言葉を出す前に彼女は口を開いた。
「じゃあ、お兄さんが一緒に死んでくれるなら、嬉しいかな。今すぐじゃなくても」
清宮の迷いのない声に疑問を持つ。彼女にとって当たり前の言葉になっている死に、やっと問いかけることができた。
「死ぬことが怖くないのか?」
清宮は笑って見せた。それは愚問だと言うように。
「死ぬのが怖くない人なんている?……でも、一瞬で終わるんだと思ったら、どうでもいいかなって。生きたい理由もないし」
清宮は人生に楽しさや幸せを求めているのではなく、自分が生きていてもいい理由を探している。ただ流れていく言葉ではなく、"生"と繋ぎ止めておけるほどのものが今の清宮にはない。そしてその役割が今の自分にあるのだと海堂は思った。
「やっぱり死ぬな」
海堂の言葉に清宮は一瞬視線を逸らした。
「お兄さんは私が死ぬのを止めるの?」
もうその言葉に温度はなかった。
「そうだな」
海堂はこれが最後のチャンスかもしれないと話を切り出した。
「死ぬ前に聞いて欲しい話がある。信じるか信じないか、君に任せるから。聞くだけ聞いてくれ」