「私は今からちょうど百日後に死ぬとする。その間には楽しいことと辛いことが交互に起こる。普通なら、次の幸せのために生きようって思える時間も、私にとっては生きるという行為自体が苦しくて辛いことなの。だから死ぬ日を決めて、その日まで頑張ろうって時間を繋いでいる。死ぬこと=正しいことではないけど、自分にとって死ぬことが生きていく中での目標なんだ。だから百日間辛い思いをするよりも一日で終わる痛みの方がいいと、残りの九十九日を捨てる」
生きることが辛い理由を話す清宮の表情は、言葉の割に穏やかだった。
「悲しいとか辛いとか、楽しいとか幸せとか、そういう感情は生きていれば誰にでもあるでしょ?だから、生きてさえいればついてくる人生の付録みたいなもので、私にとってはいらないもの。幸せは、特に。死にたいと思っている私には、なくてもいい付録だから、相応しくないから、受け取りたくない」
訪れる幸せに自分は値していないと言うように、清宮の言葉は途切れることなく紡がれる。それは必死で、目の前のものにくらいつくように叫んでいるようにも聞こえる。
しかしその声に形はなくて曖昧で掴めない。
清宮は自らを指さして、へらっと笑って見せた。
「私、何考えてるか分からないってよく言われるの。そりゃ、常に死にたいって考えてるなんて言えないから、その時は何も考えてないって言うしかないけどさ……」
彼女は消えかける言葉と共に俯いた。
「早く死にたいって毎日思って、その考え方が当たり前になって、今まで自分がどうやって生きていたのか忘れた。いつか死ねると思って生きた方が生きやすくなって。プラスの方向に考えようとしても、やっぱり辛くて、生きてるだけで吐き気がして、気持ち悪い。……私は、どうしたらいいのかな」
話の最後まで目は合わず、清宮は独り言のように呟いた。
海堂は無責任に「それでも生きろ」と言う在り来りな言葉でこの話を終わらせたくはなかった。