彼女の発言に海堂は目を見開いた。自分の真似をして話しているようにも思えるが、その目に偽りの色はなかった。
清宮は海堂と同じように自分がここにいる経緯を話し始めた。
「ここがお兄さんの言う、パラレルワールドだとしたら、私は十年前の世界から来た過去の人。そして過去の世界で私は一度死んでいる。……いや、違うな」
清宮は一瞬考え込んだ後、話を続けた。
「私も神様に会った。その時に、まだ死んでないって言われたから、意識はないけど寝たきり状態といったとこかな」
「どういうことだ?」
「過去の世界で私は自ら命を絶った。でも神様に、再び目を覚ますことができると言われた。意識を取り戻す条件として、自分の存在理由を探せと……それを探し出せば元の世界に戻って、そこにいる私が目を覚ます仕組みらしいよ」
十年先の未来から来た海堂。
十年前の過去から来た清宮。
そんな二人が今いる場所は、海堂のいた未来の世界でも、清宮のいた過去の世界でもない。
パラレルワールドが存在していたとするならば、海堂がいた世界はα(アルファ)、清宮がいた世界はβ(ベータ)、そして二人が今いる世界はδ(デルタ)。最低でもその三つの世界に、それぞれ記憶や年齢は異なるが同じ人物が存在しているということになる。
この仮説が事実なら、δには既に海堂と清宮が存在している。しかしここにいる二人は、それぞれαとβから来た異世界人。これだと現状δには、彼らが二人ずつ存在することになる。
「私は今まで、この世界の私に出会ったことはない。ずっと疑問だったんだ。この世界は何なのか、どういう理由で存在しているのか。でもなんとなく分かった気がする」
そう言って海堂に笑いかける。
「今私たちがいる世界は、未来でも過去でも、あの世でも現世でもない。お兄さんと私が出会うためだけに創られた世界だと、私は思う。今日お兄さんと話せていなかったら、これからもこの世界での生活は続くだろうし、上手くいって、お互い元いた場所に帰るなら、この世界は消えてしまうかもしれない。そんな創り物の世界で神様の狙い通りに事が進んだ」
「自分たちだけの世界……。なぜそんなことを」
この世界の存在については納得できたものの、海堂は創り出された理由までは分からなかった。
そんな海堂に対して、清宮は答えを見つけていた。
「自分の生きる意味について、神様が言ってた。未来に行けばヒントを得られるかもしれないって。それってお兄さんのことだったんだね。この人と話せばヒントが見つかるって分かってたから神様は私とお兄さんを引き合わせた。それはお兄さんも同じだと思う。私と話したことで分かったことがあるんでしょ?」
笑みを浮かべて話す清宮と海堂の目が合う。
すると何処からか鐘の音が聞こえてきた。
この近くには結婚式場も教会もない。ただ、二人にはこれが何を意味するのかはっきりと分かっていた。
「私も少しだけ、過去の話をしてもいいかな」
そう言って清宮は、自分ことを話始めた。