午前七時。曇り空の広がる日は、決まってベランダに出る。手すりに両腕を乗せ、もたれかかるようにして空を見上げる。次に視線を下げて、ひとつ息を吐いた。 マンションの五階から見える景色はあまり好きではない。斜め下を覗けば途切れることの無い車の列。目の前には別のマンション。遠くから聞こえる電車の音。風の音も鳥のさえずりも聞こえない。上京するまでいた町では当たり前だった音が、ここでは全て都会の音に呑み込まれる。