私は、こんなに暗い高校生活を望んでいたわけではない。もっと有意義に一度しかない高校生活を充実させたかった。友人たちと一緒に楽しく過ごしたかった。
実現することができない未来に、また絶望感が襲ってきて、目の前の未知なる世界に目を閉じた。
「えっ、美月もう帰るの? せっかく仲良くなったばかりなのに、もうちょっとくらい」
フェンスに背を向けて歩き出す私のあとを追いかける足音がするが、それを無視して扉の脇に置きっぱなしにしていたかばんを肩にかけると。
「ちょっと待ってよ。ほんとに帰るの?」
肩に手が添えられる。動き出そうとしていた足はぴたりと動きが止まる。
「うん、帰る」
屋上に長居しすぎたせいで身体は冷え切った。触れられている部分以外は。
「なんで。俺、なんかした?」
「……伏見くんは何も」
「じゃあなんで。俺の何かが嫌だったからじゃ……」
自分の記憶を遡って推理した伏見くんは、
「もしかして今の言葉が嫌だった?」
的確に的をついてきて、一瞬だけ動揺する。
〝せっかく仲良くなったのに〟は、私には当てはまらない。だって仲良くなったつもりはないからだ。ただ彼が一方的にそう思っているだけであって、私は全然心を開いてはいない。むしろ厳重にカギをかけて閉めている。
「べつに、そういうわけじゃなくて…」
──私が望んだ未来じゃない。
「じゃあなんで。なんで急に帰るなんて言うの」
あの日、私が失敗なんてするから。全部、自分自身にイラついて、ふつふつと煮えくりかえるように。感情の矛先が、そばにいた彼へと向けられそうになる。
「……用事、思い出しただけだから」
咄嗟についた嘘が、お腹の真ん中でぐるぐると渦を巻く。煮えくり返そうになる感情に混ざって、それは次第に膨れ上がる。
「ほんとに?」
「ほんと…だから…!」
何度も尋ねる彼に、冷たく言い放つ。
べつに伏見くんが悪いわけじゃないのに。伏見くんにイライラしているわけじゃないのに。私のそばにいたせいで、不条理に向けられる矛先。
「うん、そっか、ごめん」
弱々しくなった声のあとに、離れてゆく手のひら。さっきまで温かかったのに、一瞬でその温もりさえ奪われて、急速に心はしんと冷える。
「じ、じゃあ、私帰るから……」
扉のドアノブを捻った瞬間、「待って」またもや声をかけられる。
捻ったまま、振り向かずに固まっていると。