第八章 リボンの思い出
関東大震災の翌年、また夏がめぐってきていた。
磯吉は、年が明けても戻ってこなかった。
やっと、戻れたのは桜が咲いた頃だ。
「俺が優秀だから、会社が離してくれなくてな」
嬉しそうに話すのを、自慢話だと皆が聞き流す中。喜んで聞いたのは、父の安右衛門だった。跡取り息子がじきに戻ると聞き、孫の顔も見られたことで「死んでなるものか」と思ったらしい。彼は、北風が吹く頃には布団から起き上がれる様になった。
そして、磯吉が戻った頃には、杖は必要だが玄関先を散歩するまでになっていた。
毎日、茶畑を手入れする家族と共に、朝は正一と二郎に手を引かれて散歩に行き。夕刻には、日没を見るのだと縁側に座り空を眺める。
「ジジさま、今度は蜜柑畑に行きましょうよ」
藤乃がそう言うと
「そうだな、そこまで歩けるようになるといいな」
可愛い孫娘の頭を撫でたりする。
「じゃあ、僕も一緒に行きます。藤乃も、ジジ様と2人じゃ心配だろうし」
正一は、いつでも藤乃の後を追いかけている。
「なあ、ゐく。正一は、藤乃にホの字何だろうな、あれは」
磯吉がいち早く、息子の初恋に気がつくと
「可愛い恋ですね、イトコ同士だから恋愛対象に見て貰えないでしょうけれど」
ゐくは、楽しそうに息子の成長を見守っている。
あの震災が嘘だったように、平和な毎日が送れることを、神仏を信じる訳ではないが天に感謝していた。
今日は、日曜日。
子供達も全員揃い、宮城家が代々守って来ている近くの神社に草刈りに行く日だ。
「我が家はなあ、ジジのお父上の代には殿様に仕えていた武士じゃった」
孫達に囲まれ、楽しそうに昔話をする安衛門。身を乗り出して、孫達は話しを聞いている。
「その前の先祖様は、この地に馬でやってきたのじゃ。戦に敗れて、白馬に乗ってやってきた。白馬は傷付いており、この地の白い花の咲く木の所まで来て息絶えてしまった。
そこで、先祖はそこに愛馬を葬った。その木は、翌年から赤い花しか咲かせなくなったそうだ」
聞いている子供達から、小さな声が挙がる。
「でな、その武将は文殊菩薩様を大事にしていた。知恵の神様だ、その神様を祭るお堂を作った。それが今の文殊堂だ。今から、皆で行って草刈りと掃除をするぞ。さあ、道具を持って参れ」
子供達は、一斉に立ち上がるとそれぞれに掃除道具や、鎌などを取りに行く。
「父上は、私が背負いますから。さあ、行きましょう」
磯吉は、嬉しそうに父の手を取る。
「俺は幸せだな、息子が立派になって可愛い孫達まで」
差し出された手を取ると「よいこらせ」と立ち上がった。
奥で女性陣が、お弁当の入った籠を背負うと賑やかに会話している声が聞こえてくる。安右衛門が、普通に生活できる様になってから家の中は明るく賑やかな毎日だ。
「藤乃、俺がお前の荷物をもってやるよ」
「正一、触らないで!このくらい自分で持てるし」
「いや、俺が持つから寄越せ!」
「やだあ、正一がいじめる!」
子供達も、なにやら賑やかく・・・いや、微笑ましい。
「おにいちゃん、手つないで」
弟が欲しかった二郎は、イトコの博が可愛くてならない
「分かった、博いくぞ」
「あの子達は、イトコというよりは、兄弟ですね!ゐくさま」
そう言って、笑いながら はるよが振り向くと・・・なぜか、そこには座り込むゐくの姿が有った。
「ゐくさま、どうされました」
背負い籠を、地面に降ろして顔を覗き込む。しかし、ゐくは青い顔をして座り込んだままうなり声を発するだけだ。
「義姉様、義姉様。どうされましたか!大丈夫ですか!」
叫ぶ彼女に、異変に気がついた磯吉が父を背中から降ろすと走って来た。
「義兄さま、ゐくさまが・・・」
お腹を押さえて、身体をくの字にし動けない彼女を見て彼は真っ青になる。
「しっかりしろ、ゐく!どうした!おい、返事をしろ!」
声の限りに叫ぶ彼に、正一と二郎も気がついたのか走ってやってくる。
「おい、医者だ!医者に連れて行くぞ!!」
走り寄って来た勘蔵に彼は「ゐくを頼む、リアカーを借りてくる」叫ぶ様に言った。山里には、医者は無く。数キロ先の診療所まで、運ぶ必要があり。さすがの彼でも、背負って行くのは無理だと思ったようだ。
「分かりました、お兄様。ここに居りまする」
「では、頼んだぞ」
立ち上がろうとする、磯吉の手をゐくが必死に掴んだ。
「磯さ・・・ん。どうか、いかない・・・で」
あまりの必死さに、彼は驚いて彼女の手を握るとこう言う
「医者に行かねば駄目だ、少しの我慢ゆえ・・・頑張れるな。直ぐ戻る」
それを聞いて、彼女はゆっくりと首を横に振った。
「どうした、ゐく。子供のように・・・」
握った手が真夏だというのに、氷の様に冷たい。
「いかな・・・いで。たぶん、もう・・・」
そういうと、地面に身体をくの字にしたまま倒れ込んだ。
「ゐく!ゐく!ゐく!どうしたんだ、しっかりしろ!!」
必死に叫ぶ彼に「私がリアカーを借りてきます」勘蔵が、走って行った。
「お母さま、お母さま」すがり付く子供達に、全く反応が出来ない。
「はるよ、家の中から布団を」
「はい、義母さま!」
それぞれが、必死に出来る事をし始める。
「ゐく殿、どこが痛むのです。しっかりなさい、こんな急に」
つ祢が、彼女が手で押さえる場所を確認する。
「胃が・・・お腹が・・・くっ・・・」
磯吉が地面に寝かせておけないと、抱き上げようとするがあまりの痛みに身体が真っ直ぐに出来ないらしく。抱き上げることすら出来なかった。
数分経っただろうか
「リアカーを借りてきました、早く姉上をこちらに!」
「布団は、これを」
弟夫婦の手助けで、リアカーに布団を紐で括り付け彼女を寝かせる事が出来た。
「坂本まで行くぞ、勘蔵後ろを押してくれ」
診療所は坂本という場所にある。そこまで、男2人でリアカーを引っ張っていくと磯吉は言うのだ。
「いそ・・・さん。私・・・は、子供達と・・・いっしょに・・・最後は・・・」
額にびっしりと冷汗をかき、死人の様に土色の顔色をした彼女は必死に訴える。
「お父さま、正一はお母さまに付き添いたいです」
「僕も、お父さま。僕も」
正一も二郎も、必死に訴える。それを見ると、ゐくは苦しみの顔をしながらも微笑んだ。
「正一・・・二郎・・・私の可愛い子・・・」
ゆっくりと手を伸ばした両手が宙を掴む。2人は、その腕の中に自ら入って行った。
「もう、目の前が暗くて・・・何も見えませぬ・・・ここにいるのですね・・・」
彼女の目からは、涙が流れる。
「良く聞きなさい・・・母が居なくなったら、父をたのみます・・・くっ」
「馬鹿なことを言うな!こんなことしていないで、行くぞ!」
リアカーの前を持ち上げると、進もうとする磯吉にゐくが言った。
「待って。リボンは・・・」
彼が、いつもゐくのリボンを持っている事を知っているのだろう。彼はリアカーの持ち手をゆっくりと地面に降ろすとポケットの中から布を取りだした。そこに包まれていたのは、あのゐくの赤いリボンだった。
「ゐく・・・」
彼女の手を開くと、手の中にリボンを握らせる。時々、身体を痙攣させて転がり落ちそうになる彼女の背中を磯吉は支える。
「正一、俺と叔父上がリアカーを押すから。お前はこれに乗って、母が落ちない様に押さえていてくれ」
正一は昨年より、一回りも二回りも大きくなっていた。そろそろ、子供から少年に差し掛かった凛々しい顔になっている。確かに、母がリアカーから落ちない為に押さえることくらいは出来るだろう。
「二郎、お前はここで待っていてくれ。申し訳無いが、2人乗せたらさすがに無理だ」
「僕は、歩くから」
「いや、二郎。お前はここに居なさい、足手まといだ」
父に言われると、ぐっと下唇を噛みしめた。
「じろう・・・」
優しく小さな声で、ゐくが手を伸ばす。
「こちらへ・・・」
「お母さま」
目の前に行き、宙を掴む彼女の手を握った。
「いいですか、聞きなさい。あなたは・・・大丈夫・・・です。ほんとうは・・・とても強いのですから」
ゆっくりと、彼の頭を撫でると「手を」と言う。触れることで、二郎の肩を確かめ、ゆっくりと大事な息子を記憶するように触れる。そして、手に持ったリボンを治郎に握らせた。
「母は・・・貴男の側にいます。これを、私だと思って・・・」
「はい、お母さま」
「あなたは、絶対にだいじょう・・・ぶ」
そこまで言うと、また酷く苦しみ始めた。
「もう待てない!行くぞ、正一。母をしっかり押さえろ」
「はい!」
動き出すリアカーから、ゐくの声が聞こえてくる。
「じろう・・・ありがとう。母は幸せで・・した」
「お母さま、お母さま、お母さまああああ」
治郎は肩を安右衛門に押さえられ、何とかその場に留まっている。
しすて、声の限りに彼は叫んだ。
それが、ゐくと二郎の最後の会話だった。
夕方になって、ゐくを抱いた磯吉達が戻ってきた。後ろには、無言で立ち尽くす正一がいた。
「お母さま!お母さま!」
走り寄る二郎に
「二郎、申し訳ない。医院まで母は、もたなかった」
涙すら出ないらしい磯吉は、そう伝える。
「お父さま、今なんて」
「二郎よ、申し訳無い。母上は、亡くなった」
父の言葉が信じられない彼は、父の腕を引っ張ると母の顔を見ようと背伸びをする。
「お父さま、お母さまは眠ってるだけですよね」
何かを乞うような目で、見つめる息子に
「違う、亡くなったんだ」
そういった彼自身も、自分の声がどこか遠くで響いている様に感じていた。
そのやりとりを、立ち尽くして聞いていた正一はすっと家の中に入ると
「お祖母さま、母を寝かせるのはこちらで良いですか」
リアカーから持ってきた布団を、奥の座敷に敷くとそのままへたり込んで声にならない声で叫び続けた。
それに引き寄せられる様に、磯吉は奥の間に進むとゐくを寝かせる。
「正一、取り乱すでない。母が悲しむ、お前にはまだ父が居る」
息子の肩に、手を置き磯吉は無言で涙を流した。
その様子を見ていた、つ祢は
「はるよさん、葬儀の準備を。ご近所に知らせて来てくれますか」
「はい、義母さま」
はるよは、急いで出ていった。そして、玄関で立ち尽くす二郎の肩を抱くと「泣いて良いのだぞ。今日ばかりはババが許す」そう言って、抱きしめた。しかし、二郎は小さく首を振るとこう言った。
「ババ様、私はお母さまと約束しました。お父様を私が支えないとならないのです。お父さまは、お母さまが居ないと生きていけない」
ポケットに入れた、ハンカチに包まれたリボンを取りだすと。
「お母さまは、ここにいますね」
そう言うと、ゆっくりと母親の枕元にすわり
「お母さま、お疲れ様でした。二郎は、いつでもお母さまと一緒ですから寂しくありません」
リボンを、ゐくに見せる様に目の前にかざした。
つ祢が、どこからともなく白い布を持ってきて。
枕元にお盆と、線香立てを置く。
「ゐく殿、辛かったですね。もう、苦しくないでしょう。今夜はゆっくり皆と過ごしましょう」
乱れた髪を、持ってきた櫛で解かすと。紅皿に水を垂らし、唇と頬に色味を差した。
「母上、ありがとうござりまする」
「磯吉殿、辛いですね。ゐく殿は、最後は何と」
彼はしばらく無言だったが、ぽつりぽつりと話しだした。
坂本に行く峠を越えて、あと少しの所でした。突然、ゐくがしっかりとした声で私を呼んだのです・・・と、話し始めた。
「磯さん、磯さん、1度止めてください。喉が渇きました」
先ほどとは打って変わって、痛みが和らいだのか正一に背中を支えられながらも、身体を起こせるようになっていた。
「お父さま、お母さまが起き上がられました!」
彼は急ぎリアカーを止めると、ゐくの元に走り寄る。
「ゐく、少しは気分が良くなったのか」
「はい、痛みがだいぶひきましてございます」
「勘蔵、あと数分だ。しかも下り坂だから、診療所に走って行ってくれ」
弟に指示すると、磯吉は急いで腰に下げた竹筒の水筒を渡す。
「ありがとうございます」
一口、二口、水を飲むと笑顔になり「ほっ」と息をつく。
「磯さん、聞いて下さいますか」
「何だ、言ってみるが良い」
「私は、ずっと籠の中の鳥でした。美しくさえずり、可愛い姿を見せれば喜ばれる。でも、自由も自分の意志すら主張出来ない。そんな中で暮らしてきました」
「それは、柴田の家の事か」
「はい。そこから連れ出してくれたのは、貴方でしたね。ゐくは、やっと鳥籠から出て、自由に空を飛び回れました。可愛い雛を育てる事は、野鳥には大変なことですが。雛が巣立つのを見ることは、苦労以上の幸せがあることでしょう」
「そうだな、ゐくもそれまでは元気で居らねばならない」
それを聞き、首をゆっくりと横に振ると
「ただ・・・私には出来ず・・・」
まるで、スローモーションを見るかのように崩れ落ちてゐく。
磯吉は、愛する妻を必死に抱き留めた。
「おい、ゐく!ゐく」
「子供たちをよろしくお願いします。私は籠の中の鳥ではなくなりました、幸せでした。ありがとう・・・磯さん」
そう言ってから、正一の方を向き。
「正一、父をよろしく頼みますよ」
しっかりと、力強くそこまで言うと彼女はすうっと目を閉じて、まるで眠る様に磯吉の腕をすり抜けてリアカーに倒れた。
「診療所に到着したときには、まだ温もりもあり。私は必死に先生に蘇生を頼んだのですが、無理であろうと・・・」
「そうでしたか、辛かったですね」
つ祢に話す彼の目は、真っ赤になっていた。
「死因を調べて欲しいと願いましたが、少なくとも感染病では無い上に、ここの設備では検死は無理。綺麗な身体にメスを入れること無く、送ってやるのがせめてもの餞になるのではと先生が仰いましたので・・・」
つ祢はゆっくりとうなずくと、自分よりずっと大きな磯吉の背中を撫で続ける。
「先生の仰る通りでしょう。ちょうど、ゐく殿の年齢は女性の厄年と言いまして、昔から突然亡くなる者が多いのです。きっと、彼女もそうであったのでしょう」
そういう風に思うのだと、息子に言い聞かせる様だった。先ほどから、身じろぎ1つせず土間に立ち尽くす二郎の姿もそこにあった。
「お母さま、お母さま・・・二郎は、これがあるから大丈夫です」
ハンカチに包まれたゐくのリボンを、二郎はギュッと握って絶対に泣かないとばかりに宙を睨み付けていたのだった。
リボンの話をし終えた高志は、少し落ちた気分を元に戻そうとこう言った。
「そうだ!悠。あのリボンな幸運のリボンなんだよ」
「だって、あれは母親代わりにオオジイが持っていただけでしょう」
「ああ、その通りだけれど。磯吉さんは、あのリボンを追いかけた事で関東大震災で死なずに済んだ。偶々だけどな」
「ええ、その話し聞きたい」
身を乗り出す悠を、軽く静止すると話しを続ける。
「でな、母親のゐくさんが亡くなった後。爺さんはあのリボンをお守り代わりに、肌身離さず持っていたらしいよ」
「うんうん、で何かあったの」
「太平洋戦争の時に、南方で敵襲に遭った時。塹壕・・・いわゆる、待避所の中で、いつ撤退するかタイミングを見計らっていたらしい。要するに敵に囲まれていた」
「良くそれで生きのびたね」
「まあ、話しを聞けって。その時な、母親に助けて欲しいと伝えたくてリボンを探したら、ポケットの中から無くなってたらしい」
「ええ、でも、ここにあるじゃん」
「それがな、腰ベルトに結んでおいたらしい。上着だと無くすと思って、ベルトに結んだのを忘れてたって言う単なるど忘れだったのだけどな」
「で、それがどうかしたの」
「それがな、小隊長が撤退の命令を出したのだが・・・。リボンを探していて聞いてなかったらしい。必死に探していて声が聞こえなかったんだな」
それを聞いた悠が、吹き出す。
「オオジイ、そんなん駄目じゃん」
「いや、それが良かったんだよ。言われたとおり、塹壕から飛び出した人達は一斉掃射で全員亡くなったらしいよ」
「それって、本当に母親が守ってくれたってことだよね」
「まあ、偶々かも知れないけれどな」
「御利益あるね」
聞いた話を、メモ用紙に走り書きする悠を見て高志は苦笑いする。
「それだけじゃないぞ、悟さんもなあ。あのリボンをオオジイに借りたことがあるんだよ」
「へえ、どういう理由で」
「悟さんが、奥さんに片思いしていた若い頃の話しだ。高嶺の花だったらしい」
「確かに、奥さん美人だったもんね」
「で、あのリボンを借りて握りしめて告白したんだとさ」
「じゃあ、恋愛にも効果あり?」
「俺は知らん。俺は、大学受験の時に借りて行ったけどな」
そう言うと、2人は顔を見合わせて大爆笑する。
「やだあ、みんな、あのリボンに頼ってるのね」
「まあな」
「じゃあ、あのリボンは今度は誰が使うのかな」
「次は、お前じゃ無いか。もうとっくにリボンは無くなったと思って居たよ。それをお前が見つけたということは、ゐくさんは今度はお前の応援団になるってことだろ?」
「そうかなあ、ゐく祖母ちゃんの念はまだ残っているかな」
「さあな、人の念は希望が成就したときに消えると俺は思っている」
「ゐくさんの希望は、何だったのかな」
「そりゃ、大事な息子が自分の元に来るまで幸せに暮らせる事かな。親ってのは、そう言う物だ」
「じゃあ・・・」
「そうだな」
2人はうなずくと「もう、ただリボン」声がハモってしまった。
「オオジイの棺に入れてあげれば良かったね」
「残っているってことは、今度はオオジイの念が籠もっているかもな」
「あっ、じゃあ・・・私が貰って置いて良い?」
「そうだな、今度はお前の番かもな」
その晩、彼女はベッドの上で色々な話に思いを巡らせていた。
単なる1人の人間、その1人の中には色々な人の血が受け継がれている。それを、感じた今夜。不思議な程、誰かに守られている感覚を感じていた。
関東大震災の翌年、また夏がめぐってきていた。
磯吉は、年が明けても戻ってこなかった。
やっと、戻れたのは桜が咲いた頃だ。
「俺が優秀だから、会社が離してくれなくてな」
嬉しそうに話すのを、自慢話だと皆が聞き流す中。喜んで聞いたのは、父の安右衛門だった。跡取り息子がじきに戻ると聞き、孫の顔も見られたことで「死んでなるものか」と思ったらしい。彼は、北風が吹く頃には布団から起き上がれる様になった。
そして、磯吉が戻った頃には、杖は必要だが玄関先を散歩するまでになっていた。
毎日、茶畑を手入れする家族と共に、朝は正一と二郎に手を引かれて散歩に行き。夕刻には、日没を見るのだと縁側に座り空を眺める。
「ジジさま、今度は蜜柑畑に行きましょうよ」
藤乃がそう言うと
「そうだな、そこまで歩けるようになるといいな」
可愛い孫娘の頭を撫でたりする。
「じゃあ、僕も一緒に行きます。藤乃も、ジジ様と2人じゃ心配だろうし」
正一は、いつでも藤乃の後を追いかけている。
「なあ、ゐく。正一は、藤乃にホの字何だろうな、あれは」
磯吉がいち早く、息子の初恋に気がつくと
「可愛い恋ですね、イトコ同士だから恋愛対象に見て貰えないでしょうけれど」
ゐくは、楽しそうに息子の成長を見守っている。
あの震災が嘘だったように、平和な毎日が送れることを、神仏を信じる訳ではないが天に感謝していた。
今日は、日曜日。
子供達も全員揃い、宮城家が代々守って来ている近くの神社に草刈りに行く日だ。
「我が家はなあ、ジジのお父上の代には殿様に仕えていた武士じゃった」
孫達に囲まれ、楽しそうに昔話をする安衛門。身を乗り出して、孫達は話しを聞いている。
「その前の先祖様は、この地に馬でやってきたのじゃ。戦に敗れて、白馬に乗ってやってきた。白馬は傷付いており、この地の白い花の咲く木の所まで来て息絶えてしまった。
そこで、先祖はそこに愛馬を葬った。その木は、翌年から赤い花しか咲かせなくなったそうだ」
聞いている子供達から、小さな声が挙がる。
「でな、その武将は文殊菩薩様を大事にしていた。知恵の神様だ、その神様を祭るお堂を作った。それが今の文殊堂だ。今から、皆で行って草刈りと掃除をするぞ。さあ、道具を持って参れ」
子供達は、一斉に立ち上がるとそれぞれに掃除道具や、鎌などを取りに行く。
「父上は、私が背負いますから。さあ、行きましょう」
磯吉は、嬉しそうに父の手を取る。
「俺は幸せだな、息子が立派になって可愛い孫達まで」
差し出された手を取ると「よいこらせ」と立ち上がった。
奥で女性陣が、お弁当の入った籠を背負うと賑やかに会話している声が聞こえてくる。安右衛門が、普通に生活できる様になってから家の中は明るく賑やかな毎日だ。
「藤乃、俺がお前の荷物をもってやるよ」
「正一、触らないで!このくらい自分で持てるし」
「いや、俺が持つから寄越せ!」
「やだあ、正一がいじめる!」
子供達も、なにやら賑やかく・・・いや、微笑ましい。
「おにいちゃん、手つないで」
弟が欲しかった二郎は、イトコの博が可愛くてならない
「分かった、博いくぞ」
「あの子達は、イトコというよりは、兄弟ですね!ゐくさま」
そう言って、笑いながら はるよが振り向くと・・・なぜか、そこには座り込むゐくの姿が有った。
「ゐくさま、どうされました」
背負い籠を、地面に降ろして顔を覗き込む。しかし、ゐくは青い顔をして座り込んだままうなり声を発するだけだ。
「義姉様、義姉様。どうされましたか!大丈夫ですか!」
叫ぶ彼女に、異変に気がついた磯吉が父を背中から降ろすと走って来た。
「義兄さま、ゐくさまが・・・」
お腹を押さえて、身体をくの字にし動けない彼女を見て彼は真っ青になる。
「しっかりしろ、ゐく!どうした!おい、返事をしろ!」
声の限りに叫ぶ彼に、正一と二郎も気がついたのか走ってやってくる。
「おい、医者だ!医者に連れて行くぞ!!」
走り寄って来た勘蔵に彼は「ゐくを頼む、リアカーを借りてくる」叫ぶ様に言った。山里には、医者は無く。数キロ先の診療所まで、運ぶ必要があり。さすがの彼でも、背負って行くのは無理だと思ったようだ。
「分かりました、お兄様。ここに居りまする」
「では、頼んだぞ」
立ち上がろうとする、磯吉の手をゐくが必死に掴んだ。
「磯さ・・・ん。どうか、いかない・・・で」
あまりの必死さに、彼は驚いて彼女の手を握るとこう言う
「医者に行かねば駄目だ、少しの我慢ゆえ・・・頑張れるな。直ぐ戻る」
それを聞いて、彼女はゆっくりと首を横に振った。
「どうした、ゐく。子供のように・・・」
握った手が真夏だというのに、氷の様に冷たい。
「いかな・・・いで。たぶん、もう・・・」
そういうと、地面に身体をくの字にしたまま倒れ込んだ。
「ゐく!ゐく!ゐく!どうしたんだ、しっかりしろ!!」
必死に叫ぶ彼に「私がリアカーを借りてきます」勘蔵が、走って行った。
「お母さま、お母さま」すがり付く子供達に、全く反応が出来ない。
「はるよ、家の中から布団を」
「はい、義母さま!」
それぞれが、必死に出来る事をし始める。
「ゐく殿、どこが痛むのです。しっかりなさい、こんな急に」
つ祢が、彼女が手で押さえる場所を確認する。
「胃が・・・お腹が・・・くっ・・・」
磯吉が地面に寝かせておけないと、抱き上げようとするがあまりの痛みに身体が真っ直ぐに出来ないらしく。抱き上げることすら出来なかった。
数分経っただろうか
「リアカーを借りてきました、早く姉上をこちらに!」
「布団は、これを」
弟夫婦の手助けで、リアカーに布団を紐で括り付け彼女を寝かせる事が出来た。
「坂本まで行くぞ、勘蔵後ろを押してくれ」
診療所は坂本という場所にある。そこまで、男2人でリアカーを引っ張っていくと磯吉は言うのだ。
「いそ・・・さん。私・・・は、子供達と・・・いっしょに・・・最後は・・・」
額にびっしりと冷汗をかき、死人の様に土色の顔色をした彼女は必死に訴える。
「お父さま、正一はお母さまに付き添いたいです」
「僕も、お父さま。僕も」
正一も二郎も、必死に訴える。それを見ると、ゐくは苦しみの顔をしながらも微笑んだ。
「正一・・・二郎・・・私の可愛い子・・・」
ゆっくりと手を伸ばした両手が宙を掴む。2人は、その腕の中に自ら入って行った。
「もう、目の前が暗くて・・・何も見えませぬ・・・ここにいるのですね・・・」
彼女の目からは、涙が流れる。
「良く聞きなさい・・・母が居なくなったら、父をたのみます・・・くっ」
「馬鹿なことを言うな!こんなことしていないで、行くぞ!」
リアカーの前を持ち上げると、進もうとする磯吉にゐくが言った。
「待って。リボンは・・・」
彼が、いつもゐくのリボンを持っている事を知っているのだろう。彼はリアカーの持ち手をゆっくりと地面に降ろすとポケットの中から布を取りだした。そこに包まれていたのは、あのゐくの赤いリボンだった。
「ゐく・・・」
彼女の手を開くと、手の中にリボンを握らせる。時々、身体を痙攣させて転がり落ちそうになる彼女の背中を磯吉は支える。
「正一、俺と叔父上がリアカーを押すから。お前はこれに乗って、母が落ちない様に押さえていてくれ」
正一は昨年より、一回りも二回りも大きくなっていた。そろそろ、子供から少年に差し掛かった凛々しい顔になっている。確かに、母がリアカーから落ちない為に押さえることくらいは出来るだろう。
「二郎、お前はここで待っていてくれ。申し訳無いが、2人乗せたらさすがに無理だ」
「僕は、歩くから」
「いや、二郎。お前はここに居なさい、足手まといだ」
父に言われると、ぐっと下唇を噛みしめた。
「じろう・・・」
優しく小さな声で、ゐくが手を伸ばす。
「こちらへ・・・」
「お母さま」
目の前に行き、宙を掴む彼女の手を握った。
「いいですか、聞きなさい。あなたは・・・大丈夫・・・です。ほんとうは・・・とても強いのですから」
ゆっくりと、彼の頭を撫でると「手を」と言う。触れることで、二郎の肩を確かめ、ゆっくりと大事な息子を記憶するように触れる。そして、手に持ったリボンを治郎に握らせた。
「母は・・・貴男の側にいます。これを、私だと思って・・・」
「はい、お母さま」
「あなたは、絶対にだいじょう・・・ぶ」
そこまで言うと、また酷く苦しみ始めた。
「もう待てない!行くぞ、正一。母をしっかり押さえろ」
「はい!」
動き出すリアカーから、ゐくの声が聞こえてくる。
「じろう・・・ありがとう。母は幸せで・・した」
「お母さま、お母さま、お母さまああああ」
治郎は肩を安右衛門に押さえられ、何とかその場に留まっている。
しすて、声の限りに彼は叫んだ。
それが、ゐくと二郎の最後の会話だった。
夕方になって、ゐくを抱いた磯吉達が戻ってきた。後ろには、無言で立ち尽くす正一がいた。
「お母さま!お母さま!」
走り寄る二郎に
「二郎、申し訳ない。医院まで母は、もたなかった」
涙すら出ないらしい磯吉は、そう伝える。
「お父さま、今なんて」
「二郎よ、申し訳無い。母上は、亡くなった」
父の言葉が信じられない彼は、父の腕を引っ張ると母の顔を見ようと背伸びをする。
「お父さま、お母さまは眠ってるだけですよね」
何かを乞うような目で、見つめる息子に
「違う、亡くなったんだ」
そういった彼自身も、自分の声がどこか遠くで響いている様に感じていた。
そのやりとりを、立ち尽くして聞いていた正一はすっと家の中に入ると
「お祖母さま、母を寝かせるのはこちらで良いですか」
リアカーから持ってきた布団を、奥の座敷に敷くとそのままへたり込んで声にならない声で叫び続けた。
それに引き寄せられる様に、磯吉は奥の間に進むとゐくを寝かせる。
「正一、取り乱すでない。母が悲しむ、お前にはまだ父が居る」
息子の肩に、手を置き磯吉は無言で涙を流した。
その様子を見ていた、つ祢は
「はるよさん、葬儀の準備を。ご近所に知らせて来てくれますか」
「はい、義母さま」
はるよは、急いで出ていった。そして、玄関で立ち尽くす二郎の肩を抱くと「泣いて良いのだぞ。今日ばかりはババが許す」そう言って、抱きしめた。しかし、二郎は小さく首を振るとこう言った。
「ババ様、私はお母さまと約束しました。お父様を私が支えないとならないのです。お父さまは、お母さまが居ないと生きていけない」
ポケットに入れた、ハンカチに包まれたリボンを取りだすと。
「お母さまは、ここにいますね」
そう言うと、ゆっくりと母親の枕元にすわり
「お母さま、お疲れ様でした。二郎は、いつでもお母さまと一緒ですから寂しくありません」
リボンを、ゐくに見せる様に目の前にかざした。
つ祢が、どこからともなく白い布を持ってきて。
枕元にお盆と、線香立てを置く。
「ゐく殿、辛かったですね。もう、苦しくないでしょう。今夜はゆっくり皆と過ごしましょう」
乱れた髪を、持ってきた櫛で解かすと。紅皿に水を垂らし、唇と頬に色味を差した。
「母上、ありがとうござりまする」
「磯吉殿、辛いですね。ゐく殿は、最後は何と」
彼はしばらく無言だったが、ぽつりぽつりと話しだした。
坂本に行く峠を越えて、あと少しの所でした。突然、ゐくがしっかりとした声で私を呼んだのです・・・と、話し始めた。
「磯さん、磯さん、1度止めてください。喉が渇きました」
先ほどとは打って変わって、痛みが和らいだのか正一に背中を支えられながらも、身体を起こせるようになっていた。
「お父さま、お母さまが起き上がられました!」
彼は急ぎリアカーを止めると、ゐくの元に走り寄る。
「ゐく、少しは気分が良くなったのか」
「はい、痛みがだいぶひきましてございます」
「勘蔵、あと数分だ。しかも下り坂だから、診療所に走って行ってくれ」
弟に指示すると、磯吉は急いで腰に下げた竹筒の水筒を渡す。
「ありがとうございます」
一口、二口、水を飲むと笑顔になり「ほっ」と息をつく。
「磯さん、聞いて下さいますか」
「何だ、言ってみるが良い」
「私は、ずっと籠の中の鳥でした。美しくさえずり、可愛い姿を見せれば喜ばれる。でも、自由も自分の意志すら主張出来ない。そんな中で暮らしてきました」
「それは、柴田の家の事か」
「はい。そこから連れ出してくれたのは、貴方でしたね。ゐくは、やっと鳥籠から出て、自由に空を飛び回れました。可愛い雛を育てる事は、野鳥には大変なことですが。雛が巣立つのを見ることは、苦労以上の幸せがあることでしょう」
「そうだな、ゐくもそれまでは元気で居らねばならない」
それを聞き、首をゆっくりと横に振ると
「ただ・・・私には出来ず・・・」
まるで、スローモーションを見るかのように崩れ落ちてゐく。
磯吉は、愛する妻を必死に抱き留めた。
「おい、ゐく!ゐく」
「子供たちをよろしくお願いします。私は籠の中の鳥ではなくなりました、幸せでした。ありがとう・・・磯さん」
そう言ってから、正一の方を向き。
「正一、父をよろしく頼みますよ」
しっかりと、力強くそこまで言うと彼女はすうっと目を閉じて、まるで眠る様に磯吉の腕をすり抜けてリアカーに倒れた。
「診療所に到着したときには、まだ温もりもあり。私は必死に先生に蘇生を頼んだのですが、無理であろうと・・・」
「そうでしたか、辛かったですね」
つ祢に話す彼の目は、真っ赤になっていた。
「死因を調べて欲しいと願いましたが、少なくとも感染病では無い上に、ここの設備では検死は無理。綺麗な身体にメスを入れること無く、送ってやるのがせめてもの餞になるのではと先生が仰いましたので・・・」
つ祢はゆっくりとうなずくと、自分よりずっと大きな磯吉の背中を撫で続ける。
「先生の仰る通りでしょう。ちょうど、ゐく殿の年齢は女性の厄年と言いまして、昔から突然亡くなる者が多いのです。きっと、彼女もそうであったのでしょう」
そういう風に思うのだと、息子に言い聞かせる様だった。先ほどから、身じろぎ1つせず土間に立ち尽くす二郎の姿もそこにあった。
「お母さま、お母さま・・・二郎は、これがあるから大丈夫です」
ハンカチに包まれたゐくのリボンを、二郎はギュッと握って絶対に泣かないとばかりに宙を睨み付けていたのだった。
リボンの話をし終えた高志は、少し落ちた気分を元に戻そうとこう言った。
「そうだ!悠。あのリボンな幸運のリボンなんだよ」
「だって、あれは母親代わりにオオジイが持っていただけでしょう」
「ああ、その通りだけれど。磯吉さんは、あのリボンを追いかけた事で関東大震災で死なずに済んだ。偶々だけどな」
「ええ、その話し聞きたい」
身を乗り出す悠を、軽く静止すると話しを続ける。
「でな、母親のゐくさんが亡くなった後。爺さんはあのリボンをお守り代わりに、肌身離さず持っていたらしいよ」
「うんうん、で何かあったの」
「太平洋戦争の時に、南方で敵襲に遭った時。塹壕・・・いわゆる、待避所の中で、いつ撤退するかタイミングを見計らっていたらしい。要するに敵に囲まれていた」
「良くそれで生きのびたね」
「まあ、話しを聞けって。その時な、母親に助けて欲しいと伝えたくてリボンを探したら、ポケットの中から無くなってたらしい」
「ええ、でも、ここにあるじゃん」
「それがな、腰ベルトに結んでおいたらしい。上着だと無くすと思って、ベルトに結んだのを忘れてたって言う単なるど忘れだったのだけどな」
「で、それがどうかしたの」
「それがな、小隊長が撤退の命令を出したのだが・・・。リボンを探していて聞いてなかったらしい。必死に探していて声が聞こえなかったんだな」
それを聞いた悠が、吹き出す。
「オオジイ、そんなん駄目じゃん」
「いや、それが良かったんだよ。言われたとおり、塹壕から飛び出した人達は一斉掃射で全員亡くなったらしいよ」
「それって、本当に母親が守ってくれたってことだよね」
「まあ、偶々かも知れないけれどな」
「御利益あるね」
聞いた話を、メモ用紙に走り書きする悠を見て高志は苦笑いする。
「それだけじゃないぞ、悟さんもなあ。あのリボンをオオジイに借りたことがあるんだよ」
「へえ、どういう理由で」
「悟さんが、奥さんに片思いしていた若い頃の話しだ。高嶺の花だったらしい」
「確かに、奥さん美人だったもんね」
「で、あのリボンを借りて握りしめて告白したんだとさ」
「じゃあ、恋愛にも効果あり?」
「俺は知らん。俺は、大学受験の時に借りて行ったけどな」
そう言うと、2人は顔を見合わせて大爆笑する。
「やだあ、みんな、あのリボンに頼ってるのね」
「まあな」
「じゃあ、あのリボンは今度は誰が使うのかな」
「次は、お前じゃ無いか。もうとっくにリボンは無くなったと思って居たよ。それをお前が見つけたということは、ゐくさんは今度はお前の応援団になるってことだろ?」
「そうかなあ、ゐく祖母ちゃんの念はまだ残っているかな」
「さあな、人の念は希望が成就したときに消えると俺は思っている」
「ゐくさんの希望は、何だったのかな」
「そりゃ、大事な息子が自分の元に来るまで幸せに暮らせる事かな。親ってのは、そう言う物だ」
「じゃあ・・・」
「そうだな」
2人はうなずくと「もう、ただリボン」声がハモってしまった。
「オオジイの棺に入れてあげれば良かったね」
「残っているってことは、今度はオオジイの念が籠もっているかもな」
「あっ、じゃあ・・・私が貰って置いて良い?」
「そうだな、今度はお前の番かもな」
その晩、彼女はベッドの上で色々な話に思いを巡らせていた。
単なる1人の人間、その1人の中には色々な人の血が受け継がれている。それを、感じた今夜。不思議な程、誰かに守られている感覚を感じていた。

