「考えてみろよ? 平凡に生きてきた君が何故、危険なことまでして積極的にやらせるのか。そこまでの知識も機転が利く頭脳も身体能力もないのに。普通の神経なら、そんなことを素人にやらせないし。あんな時給のいいバイトで呼び込まない。君もおかしいと思ったことはないのかい?」

 た、確かに。時給がいいけど、こんなに危ないことをさせられるなんて夢にも思わなかった。このバイトをしてからだ。命の危機を感じたのは……。
 えっ……じゃあ神崎さんは、わざと俺にやらせているのか?
 危なくなってもいいと思っている相手だから。頭が赤羽の言うことを真に受けたらダメだと思うのに。
 その言葉が俺を真っ暗な闇に突き落としていく。

「ねぇ『いい子』だ……駆。君は、神崎に騙されている。彼はお前のことなんて、これっぽっちも心配していない。可哀想に。兄である僕が君の唯一の味方になってあげるよ」

「……俺の……味方?」

「そう。僕が君の味方だ。『いい子』だね……駆」

 その後。どうなったのか俺には記憶がない。
 俺は気づくとキツネのお面を付けて赤羽と一緒に、海沿いにある高い崖のところに連れて行かれた。こんな所で突き落とされたら間違いなく死ぬだろう。
しばらくすると車の音が聞こえてきた。
 車を停めると神崎さんが降りてきた。怒っているのがよく、分かるぐらいに険しい表情をしていたが……。

「赤羽。お前……あの電話は何だ!? 立花を誘拐したって……一体何を企んでいる? その子を今すぐ返せ」

「落ち着きなよ? 神崎君。それに企んでいる? 嫌だなぁ~せっかく可愛い弟が見つかったから君にも紹介してあげようと思ったんじゃないか」

 赤羽は、お面を付けているが、楽しそうに口元がクスクスと笑みを溢していた。
 それを聞いた神崎さんは、歯を食いしばる。

「お前……まさか!?」

「フフッ……紹介しよう。彼は僕の弟の駆だ。異母兄弟になるけど、よろしく頼むよ。さぁ駆。『いい子』だ。さっき教えた通りに彼に挨拶をしてやりなさい」

 そう赤羽が言うと俺は、神崎さんに向かって拳銃を突きつけた。