じゃあ昨日言っていた伊波さんの大切な人って実の弟さんのことだったのか?
 俺の驚いた顔を見た赤羽は、アハハッと声に出して笑いだす。

「彼は、弟を大切に可愛がっていたからね。ひき逃げで失ってショックを受けていた。そこで僕は、彼に接触してこう告げたんだよ? 『君が神崎君と一緒に組めば組むほど大切なモノを失う。大切な弟を殺された気持ちは、どうだい? 君のせいで亮太君は死んだ。君が殺したようなものだ』とね。そうしたらどうだろうか?
彼は、精神的に病んで自殺した。実に簡単だったよ。人の心を陥れ、操るのは……」

 そ、そんな……。伊波さんの真相は、酷く衝撃的で悲しいものだった。
 そんなの酷い。全て赤薔薇会が仕組んでいたなんて。

「な、何でそんなことを……?」

「そんなの簡単だよ。アイツらが邪魔で目障りだったからさ。だが簡単のは消すなんて面白くない。効率的に利用して相手を追い詰める。そして必要なくなったオモチャは、もっとも屈辱的な思いにさせてから消す。それが赤薔薇会のやり方だ!」

 誇らしげに語る赤羽を見て、俺は正気か? と思った。普通の神経じゃない。
 やりやり方は最初から冷酷で、人を人だと思っていない。これほど酷いとは。

「君は、おかしいよ。そんなの普通じゃない」

「……そうだね。普通じゃない。いや……僕ら一族は神をも統べる力を持っている。普通になる必要性もない。フフッ……でもさ。その普通じゃない一族の血を君も流れているんだよ? 半分ね……立花駆君」

 はぁ? 何を言っているんだ? 急に……。
 赤羽は何もかも見透かした目で、俺を見てきた。怖いぐらいに綺麗で逆らうことが出来ない恐怖感が襲ってくる。

「何を言っているんだ?」

「君ってさ、赤ん坊の頃に親に捨てられたんだろ? 施設の前に。実はさ、僕に弟が居るんだよ。と言っても異母兄弟なんだけどね。昔父に教えてもらったんだ。強い遺伝子を残すために俺の母以外にも数人の女性と関係を持っていたって。その1人の女性が妊娠して男の子を産んだ。だが、自分の子を赤薔薇会に継がせたくなかった彼女は逃げ出し、施設の前に捨てたらしい。そのことに気づき、捜し宛てた頃には自ら命を落としたらしいが、そのお陰で弟が見つからなくなった。捜したよ」

 ち、違う……そんな訳がない。

「で、数年後に神崎君のそばで働いている君を見つけた。興味本位で、君の事をプロフィールを調べている内に誕生日や血液型が同じだと気づいた。それで伊波の弟と近づき君の髪の毛を頂戴した。そうしたら……予想通りだった。DNAで、君は俺の弟だと判明したよ」