そして俺を連れ去った黒いスーツの男も隣に黙って座っていた。

「もう少し楽しませてくれると思ったんだけど、ちょっとヒントを出し過ぎたかな?
君は、馬鹿かと思ったけど、意外と頭が切れるみたいだね」

 そう言っているが……彼は、一体誰だ?
 俺の知っている伊波君ではない。それに何だか身に覚えのある光景。
 一瞬二階堂ユミカの誘拐事件の事が頭に浮かんだ。彼の立ち振る舞いは、あのキツネのお面をつけた男を思い浮かべる。赤薔薇会のボス・赤羽を……まさか!?

「ま、まさか……君が赤羽なのか?」

 すると伊波君は、クスッと笑う。

「フフッ……そう。僕が赤羽だ。そして赤薔薇会の当主でもある」

 そ、そんな……!? じゃあ俺は、騙されていたのか。
彼を信じて神崎さんにも会っていた事も話さず、相談だって乗ってもらっていたのに。騙された自分と気づけなかった自分に悔しさとショックが大きい。
 だが赤羽が俺を誘拐した目的が分からない。

「でも、こんなに騙されてくれて随分と、からかいがいがあって面白かったよ。でも君も神崎君も詰めが甘い。君を1人にさせておくなんて……まぁそうさせたのは、僕なんだけどさ。今頃神崎君は、平山巧の行き先を追って広島に向かっているだろう。その情報をわざと流しておいたからさ」

 な、なんだって!?
じゃあ神崎さんが大阪に現れない理由って赤羽の仕業だったんだ!?
 いつの間にか引き離されていた事に驚きを隠せなかった。道理でおかしいと思った訳だ。だったら俺の言った事は、噓だったのか?

「何をする気なんだ。それに……じゃあ嘘だったのか? 伊波君が弟が居たなんて」

「うるさい。赤羽さんに失礼だろーが」

 黒いスーツ姿のが俺の顔を押さえつけてきた。くっ……痛い。
 思いっきり押さえつけられるため痛いし苦しい。すると赤羽は、クスクスと笑いながら「やめろ」と言いながらそれを止めた。
 そして起き上がらせると、赤羽は、俺の服を掴み顔を近づけてきた。
 整った顔立ちだが俺の目の前に。すると冷酷な笑みを浮かべていた。

「嘘じゃないさ。伊波亮には、確かに伊波亮太という年の離れた弟が居た。しかし僕が指示を出して殺したけどね? ひき逃げという最高で最低な演出でね」

 その言葉に衝撃を受ける。ひき逃げって……。