それから伊波君と知り合ってから数日が経った頃。彼とは、よく連絡を取り合うようになった。気さくな性格の彼は、勉強のアドバイスをもらったり何気ない話で盛り上がったりして距離を縮めていた。
 だが神崎さんには秘密にしているので、俺は、神崎さんに後ろめたい気持ちになっていた。伊波君のお兄さんのこともあるし……。
 そんなある日。また新たに依頼があった。依頼者に俺は、目を疑った。
 正確には、当事者の代理人が依頼をしてきたのだが。

「えぇっ? 辻エレナからの依頼ですか!?」

「何だ……お前。彼女の事を知っているのか?」

「知っているも何も今話題の大人気モデルですよ」

 辻エレナと言えば若干17歳で中高生達など若い子達に支援されてブレークしているカリスマモデルだ。雑誌だけではなくCMやドラマにも出演して話題を呼び活躍も幅広い。俺も可愛いと思って密かに気になっていた。
 しかし、そんなカリスマモデルが何故ウチに依頼なんて?

「依頼してきたのは、そのマネージャーの伊藤さんだ。依頼内容は、その辻エレナに付きまとっているストーカーを突き止めてほしいらしい。ストーカーは、最近イタ電から始まり、つけられたり空き巣までと行動がエスカレートして行っている。
今回は、脅迫状まで届いている。下手に警察に言うと騒ぎになるから控えたいらしいが。無視抱きなくなってきたから俺らに依頼が来たんだろうな。情報は漏らすなと書いてあった」

 辻エレナにストーカーが!?
 神崎さんの言葉にさらに驚いてしまった。あれだけ人気なら悪質なファンとか居そうだが。まさか、こんな嫌がらせまでするとは許せないな。

「それは、許せませんね。それで俺は、どうしたらいいんですか?」

 いつもなら潜入調査とかだが。今回もそんな感じだろうか? 
 だとしたら本物に会えるかな? 内心本物に会えないかとドキドキしながら質問してみる。

「そうだな。業界関係に入るのは、本来なら難しいところだが。俺は、あるコネを知っている。そいつに頼めば何の問題もない」

 そう言いながら神崎さんは、こちらを見るとニヤリと笑った。
するとゾクッと背筋が凍る感覚がした。あれ……?
 何だか嫌な予感がするのは、何故だろうか? こういう時の嫌な予感は当たるから嫌になるのだが……。

 そして俺は、神崎さんと一緒に関東スタジオに向かう事になった。そこで辻エレナは、モデルの仕事をするらしい。で、俺の与えられたバイトの内容は、ヘアーメイクのアシスタントだった。

「あら~なかなか可愛い男の子じゃないのよ。さすが神崎ちゃんの選んだ子なだけはあるわね」

「た、立花駆です……」

 神崎さんのコネとは、ヘアーメイクのリカコさんだった。
 ただし大柄なおネエ系だが。180センチ以上ある身長に瀬戸さん以上の鍛え上げられたかのような体格。バッチリした濃いメイクに真っ赤なワンピースが強烈だった。リカコさんは、浅草駅の近くで美容室を経営している。
 その世界では有名らしく、たまに芸能界のヘアーメイクも担当しているらしい。