俺は、首を傾げると警視総監は、クスッと笑っていたが。その表情は、やっぱり神崎さんに似ている。

「……伊波亮(いざなみりょう)。あの子の元バディだ。悪いことは言わない。今のバイトは辞めなさい。今の生活を大切にしたいのなら……」

 伊波……亮? 神崎さんの元バディ。その言葉は、どういう意味をするのか俺には、分からなかった。しかし、のちにそれが、大きな意味になるとは。この時は思ってもみなかった。
 それから警視総監室から出ると慌てて神崎さんを追いかけた。
 エレベーター近くで見つけるが、ドンッと大きな音を立てて壁を拳で叩いていた。

「くそっ……」

 悔しそうに声を出しながら。普段の冷静沈着な神崎さんではなかった。
 まるで怒り……いや憎しみに耐えている感じだった。神崎さんにとって赤薔薇会とは、どんな因縁があるのだろうか?
 足を踏み入れたらいけないのではないかと思うほど何だか悲痛な雰囲気になっていた。警視総監が言った人物……伊波亮に関連しているのだろうか?
 俺は、どうしたらいいか分からなかった。

 その日は、しばらく待ってから神崎さんとタクシーに乗って帰宅した。タクシーの中では、ずっと神崎さんは、黙ったままだった。
 表情は、普通に戻っていたが何だかぼんやりと考え事をしているようで、何も話してくれなかった。

 次の日の朝。いつもの通りに大学に通うが、気持ちはスッキリしなかった。
 講義室の椅子に座りながら、ぼんやりとPCウォッチを見るとメールが入っていた。神崎さんからだ。俺は、慌てて見ると

『今日は、臨時定休日で休む』とメールが届いていた。

 やっぱり昨日のこと気にしているのかな?
 神崎さんのお父さんが凄い人だったとは驚いた。まさか警視総監とは……。
 厳しい人だったけど。嫌な感じはしなかった。どちらかと言えば俺や神崎さんを心配して忠告してくれたように感じた。それに、あの悲しそうな表情も気になる。
 赤薔薇会……確かに思った以上に謎が多い。自分も散々怖い目に遭っているし、これからも危険になる可能性は高い。でも……。
 言われた通りに辞めた方がいいのかもしれないけど。だからと言って神崎さんのことは、何故か放っておけないと思う自分も居た。