神崎さんが珍しく怒ったように言ってくれた。バイトの俺が、ここに呼ばれたことに納得がいかないようだ。しかし警視総監は、顔色一つ変えない。

「バイト? 確かに彼は、お前が雇ったバイトだ。だが、しかし随分とそのバイトの彼に無茶苦茶な要求をしているそうではないか? 潜入調査といい……それは、我々の仕事で彼にやらせるには荷が重いのではないのか?」

「……それは、そうですが。その分の給料も上乗せしてあげています。それに……」

「それに……何だ? 桃哉。お前もお前だ。いつまで喫茶店と探偵みたいなことをやっているんだ? お前は、いずれ跡を継ぎ警視総監になる立場だ。そのために刑事になったはずだろう。なのに辞めて……探偵なんかになりおって。今すぐに辞めて、また刑事として戻れ。口利きなら私がしておいてやるから」

「……嫌です。俺は、俺の道でアイツらを。赤薔薇会を見つけ出して潰します。
絶対に辞めませんので……失礼します。立花行くぞ」

 えっ……えぇっ!? 神崎さんは、父親である警視総監に楯突いた。
 そして話を中断させると、さっさと1人で部屋から出て行ってしまう。
いつもの神崎さんじゃないほど気が立っていた。お父さんと仲が悪いのかな?
 あ、それより俺は、どうしたらいいんだ? 神崎さんが出て行ったから俺も出て行っていいのかな?
 出て行きそびれてオロオロしていると警視総監は、ため息を吐いていた。

「まったく……父が好きにさせてやれと言われたから好きにやらせていたが、困ったヤツだ。君も大変だな? あの子のワガママに付き合わされて」

「あ、いえ……大丈夫です。慣れていますから。あの……神崎さんは、喫茶店としても常連客に評判もいいですし。探偵としても実力は凄いです。だから……その……認めてあげてください」

 この2人にどういうやり取りがあったのか分からないし父と子のやり取りもよく分からないけど、このままにしていいのだろうか?
 親子に縁がない俺には、何だか気になってしまう。すると警視総監は、またため息を吐いた。悲しそうな表情で

「君は……彼に似ているな」

「えっ? 彼……?」

 誰のことだろうか? 急にそう言われても……。