『警察の者です。佐々木慶一さん。いや……本名は、井戸慶一さんでしたよね? 結婚詐欺の用件でお話を聞きたいのですが?』

「な、何かの勘違いじゃないですか? 俺は、そんな名前じゃないですし」

『そうですか……なら強引に行くしかないですね』

 するとその時だった。窓の方からガッシャンと大きな物音がした。俺からも聞こえるほどの音だった。

「な、リビングの方からだと!?」

 佐々木慶一は、慌ててリビングの方に向かった。俺は、真っ暗なクローゼットの中なので状況が分からない。あの物音は何だ? 揉めているのか?
 すると声が聞こえてきた。

「立花。そこに居るんだろ? 居たら声を出せ」

 この声は、神崎さん!!
 良かった……連絡をつかないのを心配して捜しに来てくれたんだ。早くここに居ることを知らせないと……。
 ガムテープが口についていて声が出せない。必死にもがいてクローゼットの戸の部分に近づく。隙間から外の様子が見る事が出来た。
 しかし佐々木慶一がリビングに入って来てしまった。
 や、ヤバい……神崎さん!?

「誰だ? 貴様……不法侵入だぞ!?」

「不法侵入しているのは、お前の方だろ?ここの住宅の持ち主は、最近入院している年寄りだ。同じ『佐々木』でもな。立花を誘き寄せるために用意したのだろうが俺には、通用しない。さっさと立花を引き渡せ」

「な、何を根拠に? それに立花? 誰だそれは……勝手な言いがかりをつけるな」

 とぼけようとする佐々木慶一に俺は、悔しくなる。
 くそ~目の前に居るのに。必死にもがく。
しかし神崎さんは、変わらず余裕の表情をしていた。

「この家の情報、お前が『井戸慶一』だと言うことは、すでに調べがついている。データも保管して、そのまま警察に渡してもいいんだぞ? それと、立花はここに居る。これが証拠だ!」

 神崎さんは、そう言うとPCウォッチを見せる。
 そしてボタンを押すと、赤外線が出て俺の持ってきたカバンに共鳴して光り出した。何で……?