まぁ……その理由も知っているけどさ。
 ハァッ……とため息を吐きながらリュックを外すと、店の奥に入って行く。
 奥に入ったところに休憩スペースで6畳の和室がある。膝より少し低い段差があるので、靴を脱がずに隅っこにリュックを置いた。
 和室は、テレビとテーブルが置いてあり押し入れまである。エプロンをつけるとキッチンの方に向かった。手を洗うと消毒をする。
 チラッと神崎さんを見るとサンドイッチを切っていた。あ、サーモンサンドだ!
 マスタードマヨネーズとあらびき黒こしょうが、アクセントで大人の味なんだよな。神崎さんの作る料理は、どれも美味しい。
 このサーモンサンドも大好物でたまに、まかないで自分用に作ってもらうほとだ。
 うぅ……見ていたらお腹が空いてくるな。
 よだれが出そうになるがグッと我慢する。神崎さんは、それを気にすることなく出来上がると俺に皿を渡してきた。

「ほら。これを田中さんのところに出してこい」

「あ、はい」

慌てて返事をすると皿を受け取りトレイを窓際に座っている田中さんに持っていく。田中さんは、70代ぐらいの年配の男性で常連客の1人だ。

「お待たせしました。サーモンサンドです」

「あぁ悪いね……立花君。どうだい? この仕事にも慣れてきたかい?」

「は、はい。何とか。まだ慣れない部分もあったりしますが」

サーモンサンドをテーブルに置くと、田中さんはニコニコしながら気さくに話しかけてくれる。
 田中さんは、一人暮らしだ。奥さんは、すでに他界しており息子さんは、結婚して別々に暮らしていると前に話してくれた事がある。
 神崎さんの作る料理とコーヒーが好きでたまに、こうやって食べに来てくれる。
 俺は、ペコッと頭を下げるとキッチンに戻った。この店は、あまり客が来ないから静かだ。しかしこの店にはある秘密がある。それは……。
 するとこの静かな空間に合わないほどの勢いでドアが開かれた。
 ドアに設置してある鈴が勢いでカランカランと大きな音を立てて鳴っていた。

「せんぱ~い」

「いい加減に静かに入ってこい。瀬戸」

「あ、すみません。いや、それよりも大変なんですよ。ぜひ先輩のお力添えを」