俺は、慌ててコーヒーを代わりに淹れると言った。もしコーヒーに何かを盛られたら大変な事になるし。

「そんな悪いなぁ……お客様なのに」

「いえいえ。私も何かしていないと……いや。何かしたくて。コーヒーとか淹れるの得意なんですよ。ちょっとキッチンお借りしますね」

 そう言うと慌ててキッチンに向かった。ふぅ……危なかった。
 しかし、さっきの話し話は、どういうつもりなんだ? これを機に騙し取ろうとしているのか? それとも油断させるために?

 一瞬寂しそうに話す佐々木を気の毒に思えた。
 嘘をついているように見えないほど悲しそうな目だったから。いやいや。騙されるな。あれは詐欺だ! その手の芝居は上手いはずだ。
 俺は、必死に首を横に振って忘れようとする。そしてコーヒーを淹れた。とにかく何とか回避しないと、ついでに何か証拠が見つかればいいが。
 そう思いながらインスタントコーヒーを淹れるとソファーにあるテーブルまで持って行く。

「お待たせしました」

「ありがとう。ごめんね」

「いえいえ。これぐらい大したことありませんので」

 俺は、ニコニコしながらコーヒーの入ったマグカップをテーブルに置くとソファーに座った。佐々木慶一も座る。
 俺は、自分の淹れたコーヒーだから疑わずに普通に飲んだ。すると佐々木慶一は、マグカップを見ながらこんなことを呟いてきた。

「そういえば、さっきの話なんだけどさ。母さ……病で入院しているって話。あれ……本当なんだ」

「えっ……?」

 本当って……どう意味で? 
不思議に思った瞬間だった。視界が眩みクラクラしてくる。手が痺れてきて持っていたマグカップを落としてしまった。まさか……薬が!?
俺は、立ち上がろうする。しかしフラつきそのまま床に倒れ込んでしまった。
うっ……意識がぼんやりする。

「残念だったね……立花駆君」

えっ……? ま、まさか、俺の正体に気づいて!?